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統合失調症様症状をきたす脳神経疾患

多発性硬化症における精神病症状

Psychotic symptoms in multiple sclerosis

北村聡一郎岸本年史

Schizophrenia Frontier Vol.12 No.1, 11-15, 2011

要約
 多発性硬化症は多彩な神経症状を時間的,空間的に増悪・寛解を繰り返しながら認める脱髄性疾患であるが,その経過中に精神症状を呈することが知られている。精神症状は睡眠障害,多幸性,易刺激性,抑うつ,不安,焦燥,ヒステリー,精神病症状など多彩な症状を呈する。特に精神病症状は幻覚,妄想,考想伝播,させられ体験,思考障害など統合失調症に類似の症状を認め,好発年齢も近いことからしばしば両疾患の鑑別を要することがある。多発性硬化症の診断には神経症状の評価や髄液検査,画像検査などを総合的に評価して行い,また統合失調症との鑑別を行う。治療はステロイド療法を行い,必要に応じて抗精神病薬の投与を行う。多発性硬化症の精神病症状はときに統合失調症との鑑別が難しい例もあるため,常に両疾患を念頭に置いた診断・治療にあたることが重要であると考える。

Key words
多発性硬化症,統合失調症,神経症状, 精神病症状, ステロイド療法

はじめに

 多発性硬化症はCruveilhier,Carswellらによりはじめて報告された疾患で,その後1868年にCharcotにより眼振,企図振戦,断綴性言語の3主徴を呈し,神経病理学的に髄鞘が脱落消失して軸索線維が残り,強いgliaの増生を認めることが報告された。わが国においては,それまで多発性硬化症は存在しないとされていたが,1954年に冲中1)らによりその存在が明らかにされた。当初は視神経脊髄炎の占める割合が多く,多発性硬化症の典型例は少ないとされ,わが国の脱髄性疾患は特異な病像を示すことが議論されたが,その後の研究で次第にこの割合は変化し,おおむね諸外国と変わらない割合であることがわかった2)。多発性硬化症は脱髄性疾患であり,さまざまな神経症状を時間的,空間的に呈する疾患であるが,その経過の中でさまざまな精神症状を呈することが知られている。またその発症年齢の近さもあいまって統合失調症や気分障害,不安障害などさまざまな精神疾患との鑑別にしばしば困難を伴うことが経験される。本稿では主に,統合失調症様症状を呈する多発性硬化症について,その疫学や症状,治療について自験例を交えて論じてみる。

1 疫 学

 多発性硬化症は欧米において若年成人の発症が神経疾患の中で最も多い疾患で,人口10万人あたりに約50人であるが,わが国での有病率は人口10万人あたり約8人程度とされる。多発性硬化症の病因については今なお不明であるが,血行障害説3)やウイルス説4),スピロヘータ説5),アレルギー説6)など,これまでにさまざまな説が報告されてきた。また発症の誘因として寒冷,疲労,外傷,ストレス,妊娠などが知られ,北欧や北米,豪州などの寒冷地方に多く,アジアやアフリカでは罹患率は少ないとされている2)7)。これらのように成因についてははっきりしないが,大脳や脊髄,小脳の神経白質において多巣性に散在性の脱髄性病変を認め,病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり,何らかのきっかけから炎症性機序によって脱髄性変化が起こり,その発生部位によりさまざまな臨床症状が出現すると考えられる。性差についてはやや女性に多いとされ,発症年齢は30歳前後をピークに20~40歳代に最も多くみられ,10歳未満や70歳以降の発症は稀である2)。

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