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治療(インフルエンザ)

新型インフルエンザA(H1N1)2009の治療(とくに小児について)

田村大輔進藤奈邦子

インフルエンザ Vol.12 No.3, 63-70, 2011

 2009年4月,新型インフルエンザウイルスが世界的に流行した.世界各国はワクチン接種や抗ウイルス薬の使用基準など,独自のパンデミック対策を行った.ときを前後して,世界保健機関は世界中の医療機関にむけて新型インフルエンザ診療ガイドラインを公表した.このガイドラインは,新型インフルエンザに罹患した軽症から重症の患者を適切に診療する診断基準や治療指針を詳細に解説しており,のちに新型インフルエンザ診療の国際基準となった.日本では,パンデミック以前から抗ウイルス薬治療が標準化しているが,重症患者への集中治療,たとえば呼吸器管理など,いまだエビデンスが明らかでないものもあり,今後,十分な検討を重ねていく必要がある.

KEY WORDS
■新型インフルエンザ ■パンデミック ■治療 ■小児

はじめに

 2008/2009インフルエンザシーズンには,季節性A亜型(H1N1)ウイルスのほぼすべてがオセルタミビル耐性ウイルスであると報告され,インフルエンザ疑い患者にオセルタミビルを処方すること,およびその有効性が疑問視されていた.そのインフルエンザシーズンが終焉を迎えるころ,ブタ由来の新型インフルエンザ(以下,Pandemic 2009)の世界的な流行は,突然,しかし満を持したように始まった.それまで世界各国は抗インフルエンザ薬の備蓄,ワクチン製造ラインの確保を中心にパンデミック準備計画を展開し,来るべき「その時」に備えていた(日本では,水際作戦,封じ込め作戦,そして国と地域の密接した連携を中心とした医療対策を想定していた).しかし,実際はPandemic 2009の圧倒的な伝播スピードを前に多くの国々はパンデミック対策の根本的かつ緊急な見直しを余儀なくされた.幸いなことに,Pandemic 2009ウイルスはノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル,ザナミビル)に感受性を示し,ウイルスの毒性はH5N1や1918年のスペインかぜと比較すると低く,恐れられていた世界的な大パニックと医療崩壊には至らなかった1)2).現在のところ,圧倒的多数の罹患患者は医療処置を必要とせず自然回復する.
 世界各国のPandemic 2009による健康被害は,その流行状況,さらには医療制度に依存するところも大きく,ひと括りに結論づけることは難しい.本稿では,Pandemic 2009が季節性インフルエンザに移行しつつある今,World Health Organization(以下,WHO)が作成し国際基準となったPandemic 2009に対する診療ガイドラインの紹介を中心に,日本で行われたPandemic 2009治療の現状を比較検討して,とくに小児に焦点をしぼって解説していきたい.

1 WHOの基本方針 3)4)

1.Pandemic 2009とは

 Pandemic 2009は,季節性インフルエンザと大きく違う2つの疫学的特徴をもつ.1つはシーズン外流行であり,2つめは死亡者が非高齢者,とくに成壮年に最も多くみられることである.血清疫学的に人口集団の圧倒的多数が感染防御に必要な免疫を保有しないことが確認されており5)-7),そのため,新型インフルエンザウイルスの感染は全年齢層に及んだ.とくに,集団生活や社会活動量の多い小児や青年層に感染が急速に蔓延し社会的に大きな影響を及ぼすこととなった.患者発生数や死亡者が高齢者に少ない理由を,米国やフィンランドでは高齢者に交差抗体の保有率が高いためであると説明している5)8).ウイルス側の因子としては,動物実験で下気道への親和性が強く肺炎を惹起しやすいという研究成果が発表されている9).とくに,青壮年においては急速に進行する一次性ウイルス性肺炎で全身状態が急激に悪化する症例が世界各国から相次いで報告された.世界的に罹患者数と重症者数を考えると,重症化のリスク因子は,小児,妊産婦,および季節性インフルエンザと同様の基礎疾患群に加えて基礎疾患のない非高齢成人も考慮しなければならない(表1).

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