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診断(インフルエンザ)

インフルエンザA(H1N1)2009の迅速診断

三田村敬子山崎雅彦市川正孝川上千春清水英明

インフルエンザ Vol.12 No.3, 47-54, 2011

 2009年にパンデミックとなった(H1N1)2009ウイルスに対して,インフルエンザウイルス抗原検出検査,いわゆる迅速診断キットは既存の試薬で対応することができたが,季節性インフルエンザに比して検出率が低い傾向を認め,特に発病初期の検体でその傾向は顕著であった.(H1N1)2009ウイルスを特異的に検出する試薬も開発された.さらに,リアルタイムRT-PCRやLAMPなどの遺伝子検査法は,インフルエンザの迅速診断として臨床への導入が進んでいる.

KEY WORDS
■インフルエンザ ■H1N1 ■迅速診断 ■LAMP ■感度

1 インフルエンザA(H1N1)2009の診断

 2009年春,メキシコで発生したブタ由来新型インフルエンザウイルス,(H1N1)2009ウイルスは,新型インフルエンザとして世界的大流行(パンデミック)を引き起こしたが,わが国のパンデミック第一波における医療機関受診者数は2,000万人以上に上り,2010年3月までの入院患者は17,640人,重症者1,646人,死亡者198人と推計された1).パンデミック発生以来A/H1N1ソ連型ウイルスはほとんど発生がなく,2010/2011シーズンは,(H1N1)2009,A/H3N2香港型,B型ウイルスの混合流行となったが,英国のように(H1N1)2009ウイルスによって多くの健康被害が報告された国もあった.
 パンデミック時の(H1N1)2009の症例定義は,ウイルス分離あるいは遺伝子検査で確認された症例とされたが,世界各国における流行の拡大につれて,多くの患者を対象とした確認検査の実施は困難になり,確定診断に基づく患者発生の把握は早々に放棄された.わが国においては,各地の衛生研究所を中心に昼夜を問わず検査するという態勢をとったが,やはり継続は困難となり,患者の多くは季節性インフルエンザと同様に,インフルエンザウイルス抗原検出試薬(rapid antigen test;RAT,迅速診断キット)によって,あるいは,臨床症状のみによって診断された.
 従来,インフルエンザをほかの急性呼吸器疾患(acute respiratory illness;ARI)と鑑別することは非常に難しいと認識されていたが,(H1N1)2009患者の多くは発熱や咳などの非特異的な症状を呈するのみで,流行状況が把握されていなければ診断が困難なことは同様であった.1例としてシンガポールにおける成人の集計では,WHOやCDCのcriteriaのように発熱と呼吸器症状を組み合わせた臨床症状による診断の感度と特異度は決して高くなく,「白血球増多がみられない」や「胸部レ線所見が正常」という検査データを加味してようやく,ARIに対して特異度が上がるだけで,ほかのインフルエンザとの違いはみられなかったことが報告されている2).

2 (H1N1)2009ウイルスに対するインフルエンザウイルス抗原検出試薬

 1999年わが国に導入されたインフルエンザウイルス抗原検出試薬は,適切な治療薬の選択,ほかの検査の節約,感染管理などに有用性を認められ,POCT(point-of-care testing)として広く普及した.国内で毎シーズン1,000万テスト以上の供給を得て,インフルエンザの診療のみならず,疫学調査や臨床研究にも利用されている.「抗原検出試薬を利用した病原診断をしたうえで,発病早期から抗インフルエンザ薬による治療が適切に行われる」,という季節性インフルエンザにおける診療は,わが国でのみ一般的な診療方針として実施されている状況であったが,(H1N1)2009パンデミック期においても継続できたことは,わが国のパンデミック第一波の死亡数を最小限にとどめた理由の1つと考えられる3).この「早期の抗インフルエンザ薬投与」を支えたのが,迅速診断キットによる患者診断と流行状況の把握であったといっても過言ではないであろう.

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