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マイクロRNAと循環器疾患

血管平滑筋分化とマイクロRNA

山原研一山口慎太郎本間康一郎伊藤裕

血管医学 Vol.12 No.3, 33-37, 2011

Summary
マイクロRNA(microRNA;miRNA)は,標的遺伝子の転写後修飾や翻訳抑制により,その発現を制御することで,細胞分化や増殖を含むさまざなな細胞機能を制御している.
最近の研究から,特定のmiRNAが血管平滑筋細胞の分化や形質変換,およびその機能維持に関与していることが明らかとなりつつある.とくにmiR-143/145ダブルノックアウトマウスの解析は,miRNAの血管平滑筋細胞分化における重要性を明らかにした.
本稿では,血管平滑筋分化におけるmiRNAの役割について概説したい.

Key words
◎血管平滑筋細胞 ◎miR-143 ◎miR-145 ◎分化 ◎形質変換

はじめに

 血管平滑筋細胞は,正常動脈においては収縮に特化した分化型(収縮型)のフェノタイプである.しかしながら,血管平滑筋細胞の分化は可逆的であり,血管病変や培養条件下など外的ストレスがかかると,未分化型(合成型)のフェノタイプを示すようになる(形質変換).このような平滑筋細胞の分化と形質変換の制御に関しては,血清応答因子(serum response factor;SRF)に代表される転写因子およびそのコファクターであるミオカルディン(myocardin)が有名である.しかしながら,その実際の調節はSRFを基盤に多くの転写因子・コファクターが関与する複雑なものである.一方,miRNAはその発現が多くは細胞特異的であり,また,多くの遺伝子の発現を一度に制御可能である.マイクロRNA(microRNA;miRNA)の発見後,多くの研究者が血管平滑筋細胞に特異的なmiRNAの存在を,さらにはこれらmiRNAによる平滑筋特異的転写因子・コファクターの発現調節を介した細胞分化制御の可能性を考え,その同定を試みていた.

MiR-143/145による血管平滑筋細胞の分化制御

 2009年に複数のグループからmiR-145およびmiR-143が血管平滑筋分化にかかわっていることが報告された1)-5).MiR-145はmiR-143とともに遺伝子クラスターを形成しており,これらmiR-143/145が正常の血管壁(=分化型血管平滑筋)において高発現していたが,未分化型の血管平滑筋になるとmiR-143/145 発現が著明に減少していた2)3).培養血管平滑筋細胞にmiR-145あるいはmiR-143を過剰発現させると,分化型のフェノタイプになった2)3).一方,miR-143およびmiR-145のない血管平滑筋細胞では血管収縮能が著明に低下し,未分化型(合成型)のフェノタイプを示した2)3).
 そこで,生体での血管平滑筋分化におけるmiR-143/145の意義を検討するため,miR-143/145ダブルノックアウトマウスを用いた解析が行われた1)4)5).その結果,同マウスの大動脈や大腿動脈では,血管壁の菲薄化,分化型(収縮型)血管平滑筋細胞の著明な減少,および未分化型(合成型)血管平滑筋細胞の顕著な増加を認めた1)4)5).MiR-143/145ダブルノックアウトマウスの血管平滑筋細胞は,形態的にも未分化型であり,平滑筋特異的マーカー発現の減少も認められた1)4).これらのデータは,miR-143およびmiR-145が血管平滑筋細胞の分化維持に重要な役割を担っていることを示唆している.
 MiR-143/145が平滑筋細胞分化を誘導するメカニズムに関しても,SRFおよびそのコファクターであるmyocardinやElk-1との関連などを中心に検討されている6)7).CordesらはmiR-143/145遺伝子の発現調節領域にSRF結合部位を見出し,SRFとmyocardinの相互作用によりmiR-143/145発現が増加することを確認している3).一方,バイオインフォマティクスによる解析から,miR-143はElk-1,miR-145はmyocardin,Krüppel様転写因子(Krüppel-like transcription factor;KLF)4,カルモジュリンキナーゼ(calmodulin kinase;CaMK)Ⅱδの3’非翻訳領域(untranslated region;UTR)に結合する配列の存在が指摘され,これらはルシフェラーゼアッセイによりその発現制御が確認されている3).通常miRNAは標的となる遺伝子発現を負に制御しているが,興味深いことにmiR-145はKLF4やCaMKⅡδの発現抑制にはたらくのに対し,myocardinの発現を逆に増加させた.さらに,miR-145はmyocardinの作用を増強させ,線維芽細胞から血管平滑筋細胞へのリプログラミングに必要であると指摘している3).Chengらも同様に,miR-145はmyocardin発現を増加させるが,これはKLF5の発現を負に制御することによって,間接的にもたらされるものであると報告している2).いずれにせよ,これらの結果から,miR-143やmiR-145が血管平滑筋分化にかかわるSRFやmyocardinを中心とした転写ネットワークを制御しているものと考えられる.

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