マイクロRNAと循環器疾患
マイクロRNA発現解析技術の最近の進歩
血管医学 Vol.12 No.3, 15-24, 2011
Summary
内在性の低分子であるマイクロRNA(microRNA;miRNA)は,遺伝子発現をさまざまなかたちで精巧に調節する「ファインチューナー」としてはたらいていることがわかってきた.さらに,このmiRNAによる遺伝子発現調節メカニズムに異常が生じると,癌・循環器病を中心とするさまざまなヒトの疾患の発生や進展に大きくかかわっていることも明らかになってきている.この近年のmiRNAの研究の発展は,その解析技術の開発・発展が重要なはたらきをしてきた.本稿では,miRNA発現解析技術・情報データベースの最近の進歩を紹介する.
Key words
◎マイクロRNA ◎次世代高速シーケンサー ◎マイクロアレイ
はじめに
ヒトのゲノムの中にタンパク質をつくる遺伝子が占める領域は数%に過ぎない.ヒトゲノムの50%以上がくり返し配列からなることからも,ゲノムのほとんどの部分は進化の過程で生じたジャンクではないかと考えられてきた.しかし近年,哺乳類のゲノムの約半数は何らかのRNAに転写されているとの報告がある1).それらの多くはタンパク質をつくらないノンコーディングタンパク質遺伝子で,ヒトゲノム上に2万1千種程度あるいわゆるコーディングタンパク質遺伝子とは別に,数多く存在することが判明している.また,それらの役割についてはいまだ不明のままで,それゆえ,ノンコーディングRNA(non-codingRNA;ncRNA)は現在のライフサイエンスのなかで活気のある研究領域となっている.
マイクロRNA(microRNA;miRNA)はおもに20~24塩基長の短鎖RNAであり,ncRNAの一種である.1993年にLeeらが線虫で初めてmiRNAを報告している2).2000年以降になり種々の生物種でRNA干渉にかかわる短鎖RNAが報告され,それらは2001年に“microRNA”と命名された3).miRNAは標的メッセンジャーRNA(messenger RNA;mRNA)のおもに3’非翻訳領域(untranslated region;UTR)に結合し,翻訳の阻害やmRNAの不安定化によってその遺伝子の発現を転写後に調節するというかたちで,遺伝子発現の「ファインチューナー」の役割を果たしている.miRNAは正常細胞において発生・細胞分化等の正常機能の維持に貢献しており,また逆に,その調節機構が破綻することで,癌・循環器疾患などの多くの疾病の病態に関与している.
このmicroRNAが登場して以来約10年のあいだにmiRNAの研究は爆発的に進展し,現在ではPubMedに登録されている総論文の約0.4%が,さらに癌の研究に限ってみれば約1.4%がmiRNA関連の研究であり,いかにmiRNAの研究が盛んに行われているかがわかる(図1).

このように短期間に研究が発展した要因のひとつに,miRNAの検出・開発技術の進歩があげられる.本稿では,これらのmiRNA解析の検出技術や情報解析の現状と展望を概説したい.
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。