新しく解明されつつある血栓の増大と成長の分子細胞機構
血栓の増大・成長とマイクロパーティクル
血管医学 Vol.12 No.2, 41-48, 2011
Summary
止血機構は,血管からの血液の流出を防ぐという生体にとって重要な防御機構のひとつである.ある種の刺激によって細胞が活性化状態になったり,アポトーシスが誘導されたりすると,その細胞からマイクロパーティクル(microparticle;MP)が遊離されてくる.代表的なMPは,血小板に由来するものであり,血小板凝固活性の主要な部分を占めている.MPは凝固を促進する以外にも数多くの機能をもっている.血栓形成反応において,活性化された血小板は表面膜を介してプロトロンビナーゼ複合体を形成する.この活性は血小板由来MPに大きく依存しており,動脈硬化の進展にも深くかかわっている.組織因子を発現したMPは,血栓形成のメカニズムにおいて重要な役割を果たしており,とくに可溶性CD40リガンドとともに血栓の増大・安定化に深くかかわっている.
Key words
◎マイクロパーティクル ◎活性型血小板 ◎組織因子 ◎プロコアグラント活性 ◎アテローム血栓症
はじめに
止血機構は,血管からの血液の流出を防ぐという生体にとって重要な防御機構のひとつであり,その初期段階は,血小板を中心とした血栓形成に始まる.血小板の機能は,損傷を受けた血管部位の内皮下組織に結合する粘着反応と,血小板同士がくっつきあう凝集反応の2つに分けられ,後者は血小板に含まれる顆粒の内容物の放出を伴っている.生体内で,内皮細胞が障害されるとすみやかに血小板は活性化され,血管内皮下組織に粘着し,形態変化,凝集・放出反応を引き起こし血小板血栓を形成する.このような変化は動脈硬化病変においてよくみられ,なかでも時間経過とともに動脈内で徐々に生じたプラークの増大をアテローム動脈硬化症と定義し1),そこに血栓症を併発したものをアテローム血栓症と呼んでいる.
ある種の刺激によって細胞が活性化状態になったり,アポトーシスが誘導されたりすると,その細胞から微小な膜小胞体が遊離されてくることが知られている.この膜小胞体は,マイクロパーティクル(microparticle;MP)と呼ばれ,生体の恒常性維持において重要な役割を果たしている2).代表的なMPは,血小板に由来するものであり,血小板凝固活性の主要な部分を占めている2)3).MPはおもに凝固を促進する物質としてはたらいているが,それ以外にも数多くの機能をもっていることが判明してきている2)4).本稿では,血小板を中心としたアテローム血栓症における血栓形成のメカニズムについて紹介し,なかでも血栓の増大・成長にかかわる因子として注目されているMPとの関係について解説することとする.
血小板の活性化と粘着・凝集
血流下におけるイベント発生を想定した場合,血栓形成性の基質に血小板が粘着することが最初の段階である.この場合,おもにコラーゲンとフォンウィルブランド因子(Von Willebrand factor;VWF)が主役を演じることとなり,ずり応力が上昇するにつれてVWFとの結合は増大していく5).まずはじめに,粘着に関与する受容体,たとえばコラーゲンが結合する糖タンパク(glycoprotein;GP)ⅥやGPⅠa/Ⅱa(α2β1)とVWFが結合するGPⅠb/ⅠⅩ/Ⅴからのシグナルが細胞内に伝達される6).また同時に,ほかのいくつかの受容体からのシグナルが相乗的に作用し,血小板の活性化誘発が進行していく.これらシグナル伝達ネットワークには,特異的な受容体から発生するアウトサイドインシグナルと,特異的な過程を制御するインサイドアウトシグナルが含まれている5)6).一方,フィブリノゲンやVWFといった可溶性の粘着タンパクが血小板膜αⅡbβ3のリガンドに結合するとインテグリンの構造変化が起こり,血小板凝集が可能となる7).このようなシグナル伝達に伴う血小板表面のさまざまな分子構造の変化が完成されるにつれて,血小板は血栓に大きく関与する活性型血小板へと移行していく.活性型血小板が出現する大きな原因のひとつにずり応力があげられる.細動脈の血管狭窄部位に生じた高ずり応力条件下では,固相化したVWFへの結合によって,血栓形成性の表面へ接着している循環血小板や,粘着性を有した血小板が活性化していく8).これらの過程では,細胞外マトリックスとの粘着や,フィブリノゲンあるいは活性型血小板に結合したフィブリンなどが,これらの相互作用を安定化させる方向にはたらいている5)7)8).
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。