抗凝固療法 Update
脳卒中診療医に必要な抗凝固療法の基礎
脳と循環 Vol.16 No.3, 19-21, 2011
SUMMARY
フィブリン形成に至る血液凝固系は,血栓性疾患の発症に必須の役割を演じる.凝固系の活性化の過程にて生成されたトロンビンは,血小板上のトロンビン受容体刺激を介して血小板の持続的活性化にも寄与する.古典的なワルファリンは,複数の凝固因子の機能的完成を阻害することにより,強力な抗血栓効果を呈した.最近,トロンビン,Xaなど単独の凝固因子の阻害薬が経口薬として開発された.出血時の対応など新たな困難性も加わるが,ワルファリンより安易に使用できる薬剤となるかもしれない.
KEY WORDS
抗凝固薬/ワルファリン/血栓/血流
血栓形成における凝固系の役割
血液中には止血に寄与する成分が大きく2つある.血球細胞としては血小板細胞が止血に寄与する.また,水溶性のフィブリノーゲンを不溶性のフィブリンに転換する酵素群が血液凝固系を構成している1)2).健常人の血管内においては,末梢組織の隅々まで酸素,栄養物を供給する血液循環系は,血管壁の損傷された局所では速やかに流動性を消失し,損傷を修復する機能をも有している.
健常人の血管は,抗血栓性の強い内皮細胞により被覆されているため,血小板や凝固系の活性化は起こりにくい.高齢化とともに血管内皮細胞の抗血栓性が損なわれる3).明らかな血管損傷のない部分で止血機転が働くと,血液の循環を妨げる血栓が形成されることになる.血栓形成の初期段階では,直径2μm の血小板細胞4)が数mm 以上の血栓に成長するには,凝固系の活性化とフィブリン形成が必須の役割を演じることになる5).
抗凝固薬の使用経験から考える凝固系の重要性
抗凝固薬としてヘパリン,ワルファリンの使用経験は長く,かつ深い1)2)6).心筋梗塞発症リスクの高い不安定狭心症の症例では,抗血小板薬アスピリンと同様,抗凝固薬ヘパリンにも短期間にて明確に示される心筋梗塞発症予防効果がある7).ヘパリンは深部静脈血栓症,肺血栓塞栓症の予防,治療にも有効であった.人工弁などの血栓性異物周囲の血栓予防にも,ヘパリンの有効性は確立している.
経口抗凝固薬ワルファリンにも幅の広い血栓イベント発症予防効果が知られる.心筋梗塞の二次予防におけるワルファリンの有効性は,抗血小板薬アスピリンに勝る8).心房細動症例の脳血栓塞栓症の予防,深部静脈血栓症,肺血栓塞栓症の予防,治療にもワルファリンは有用であった6).
これら古典的な抗凝固薬の使用経験から考えても,抗凝固薬は心房細動時の左房内血栓,深部静脈血栓などの血流の遅い部位における血栓,不安定狭心症,心筋梗塞を惹起する冠動脈血栓のような動脈系の血栓いずれにもおいて有用である.すなわち,動脈系や血流うっ滞部位,いずれにおいても症候性の血栓性イベントの発症には凝固系が必須の役割を演じている6).
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※記事の内容は雑誌掲載時のものです。