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What's New in SURGERY FRONTIER

第68回癌領域で注目されるPKCの新知見 膵癌におけるPKC

山口洋志伊東竜哉及能大輔平田公一

Surgery Frontier Vol.18 No.1, 70-74, 2011

はじめに
 protein kinase C (PKC)はserine/threonine kinaseファミリーに属し,少なくとも12種類のisozymeが存在する。それらは細胞増殖,分化,アポトーシス,血管新生に関与するシグナル伝達において重要な役割を果たし,癌治療における新たな標的として注目されている1)2)。今回,膵癌におけるPKC異常と,PKCシグナル伝達経路による細胞間接着装置タイト結合の制御を中心に解説させていただく。

膵癌に高発現するPKC isozymeの役割

 膵癌組織においては正常膵組織と比較してPKCα,PKCβ,PKCδ,PKCι (iota)の高発現と活性化,PKCεの低発現が報告されている3)4)。これらの変化の中で,その役割が詳細に研究されているのはPKCδ,PKCιについてで,表1にそれらを要約した。

PKCδは正常膵組織と比較し,68.4%(13/19例)の膵癌組織に高発現が見られ,PKCδを導入し高発現させた膵癌細胞株によるin vitroでの解析では,ERK1/2経路,PI3K経路を介した足場非依存性増殖,抗アポトーシスへの関与が見られる反面,浸潤やmigrationは抑制されることが報告されている。PKCδ導入膵癌細胞株のヌードマウスへの皮下投与によるin vivoでの解析では,PKCδ導入群では非導入群と比較し高腫瘍形成性,高増殖性,肺への転移形成能亢進が報告されている5)。
 PKCιは非小細胞肺癌におけるoncogenic K-rasの下流の重要なeffectorであることが知られており,膵癌でのK-rasの変異が高率であることから膵癌での役割の解明が待たれていた。正常膵組織と比較して大部分の膵癌組織(27/28例)でPKCι mRNAの高発現が見られ,免疫組織化学では,腫瘍細胞の核と細胞質に局在し,PKCι高発現群の予後は低発現群のそれと比較して有意に不良であることが明らかとなった(図1)。

多くの膵癌細胞株にPKCιの高発現が見られ,siRNAや阻害薬を用いたin vitroでの解析では,PKCιはRac1-MEK/ERK1/2経路を介した足場非依存性増殖と浸潤へ関与していた。さらに,PKCιをstableにノックダウンした膵癌細胞株をヌードマウスの膵へ局注したin vivoでの解析では,非ノックダウン群と比較してTUNEL染色上アポトーシスの頻度に違いはなかったが,ノックダウン群で腫瘍の増殖スピードの低下,VEGF発現と腫瘍血管密度の低下,肝臓,腎臓,腸管膜と横隔膜への転移率の低下が見られた。これらの結果からPKCιは膵癌治療の極めて有力なターゲットであることが示唆され,PKCιシグナルの選択的阻害効果を持つ抗リウマチ薬,金チオリンゴ酸(aurothiomalate)などの膵癌治療への応用が期待されている4)。

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