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脳におけるエストロゲンの見えざる作用

第39回 ―腸内細菌と脳機能を結ぶ腸脳軸とエストロゲン―

武谷雄二

HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY Vol.30 No.4, 94-100, 2023

かつて腸内細菌叢(gut microbiota;GM)は,個体の生命維持の仕組みとは無関係にたまたま寄生している微生物,あるいは時に病原菌となり得るものとみなされてきた。しかし近年腸内の細菌数はヒトを構成する全細胞数の10倍以上であり,その種類は500〜1,000に上り,それらの遺伝情報はヒトゲノムの150倍以上であることがわかってきた。それとともに,今やGMはもっとも影響力がある人体の体内環境とみなされ,人体の臓器の1つといっても過言ではないほどわれわれの恒常性の維持や健康に関連していることが広く知れわたってきた。ヒトとGMは相互に依存しており,GMの種類やその量はヒトの健康状態と密接に関わっていることになる。
さらにGMには性差があり,性ステロイドホルモンと相互に影響を及ぼし合っている。加えてGMはその分解・代謝産物,免疫系,炎症反応などを通じて脳の機能と双方向的に作用しており,この機能系は腸脳軸(gut-brain axis),あるいは腸脳相関(gut-brain interaction)と呼ばれている。エストロゲンは脳に直接作用するが,さらにGMとの相互作用を繰り広げつつ腸脳軸という経路を介して脳に影響を与えることになり,エストロゲンの脳への作用はより重層的であることが明らかになってきた。本稿ではその概略について解説を加えたい。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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