脳におけるエストロゲンの見えざる作用
第17回 児童虐待・育児放棄の背景をたずねて
HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY Vol.25 No.2, 76-82, 2018
人は社会や周囲の人々との関係性を保ちつつ生活しているが,とりわけ母子の関係は最も基本的な人間関係といえる。見方を変えると,人類は種としての命脈を保ってきたということは,動物と比べ育てるのが最も大変なヒトの子を大事に育ててきたことによる。人間を特徴づけるもののなかで,子育ては最も普遍的な人性といえる。その破綻が子どもの虐待や育児放棄(ネグレクト)であるが,社会問題として各方面から現状を憂える指摘がなされている。はたして現在それが危機的状況を迎えているのだろうか。子育ては生殖の最終ステージであり,もし児童虐待が進行しているならば人類存亡の危機ともいえるものである。
人が世代を超えて存続するうえで何事にも優先されるべき子育ては,本能としてヒトの進化の過程で刷り込まれているのではないか。それが正しく発現しないということはどのような心性なのであろうか。育児行動は一連の生殖現象の延長ともいえ,その破綻には生殖関連のさまざまなホルモンによる調節系の撹乱が生じているのだろうか。今回児童虐待についての現状をながめ,このような素朴な疑問に対する解を得ようと試みた。
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。