<< 一覧に戻る

データブック アテローム血栓症の大規模臨床試験 PART3

8.薬物療法・副作用など a.薬物療法 ATRIA 5.心房細動症例におけるワルファリンによる抗凝固療法の正味の臨床利益

大塚崇之山下武志

血栓と循環 Vol.19 No.3, 262-265, 2011

出 典
Singer DE, et al:
The net clinical benefit of warfarin anticoagulation in atrial fibrillation.
Ann Intern Med 151(5):297-305, 2009

※図表に関しましては、割愛させていただいております。

要 約

背景

 ワルファリンによる抗凝固療法は心房細動患者における血栓塞栓症の予防に非常に有効であるが,一方で大出血のリスクが増加し,患者や医師の重荷となっている.そのため,ガイドラインでは脳梗塞のリスクが中等度から高度の症例に限りワルファリンの投与を推奨している.しかしながら,リスクに基づいた抗凝固療法を推奨しているガイドラインにはいくつかの問題点がある.1つ目はワルファリンによって起こりうる致死的な出血性合併症についてはっきりと記載していないこと,2つ目は15年以上前の研究に基づいていること,3つ目は心房細動における抗凝固療法が正味の臨床上の利益(net clinical benefit)に基づいた推奨がなされていないことである.本研究ではATRIA試験のコホートを用いて,ワルファリンによる血栓塞栓症の減少率から脳内出血の増加率を差し引いた,net clinical benefitの評価を行った.

方法

 対象はATRIA試験のコホートである13,559名の非弁膜症性心房細動患者であり,1996~2003年の後ろ向きおよび前向きの混合のコホートより,ワルファリン内服の有無による血栓塞栓症(TE)の発症率(治療上の利益)および脳内出血(ICH)の発症率(治療上の不利益)からnet clinical benefitを計算した.
 計算式は以下の通りである.
net clinical benefit=(ワルファリン非内服例のTE発生率-ワルファリン内服例のTE発生率)-比重(本研究では1.5として計算)×(ワルファリン内服例のICH発生率-ワルファリン非内服例のICH発生率)

結果

 13,559名の平均年齢は73歳であり,20.2%の症例で塞栓症のリスク因子を1つも有していなかった.6年間にわたり患者の臨床経過が記録され,66,000人年のデータが蓄積された.経過中に30%の症例が少なくとも1つ以上のリスク因子を有するようになった.コホート試験のエントリー時に53%の症例でワルファリンが投与され,経過中に15.5%の症例で30日以上のワルファリンの内服が追加された.
 経過観察中に1,092の血栓塞栓症イベント(虚血性脳卒中1,017件,全身性塞栓症75件)が発生し,ワルファリン内服中の症例では407件,ワルファリンを内服していない症例では685件の血栓塞栓症イベントが発生した.また,頭蓋内出血は299件発生(脳内出血139件,硬膜下出血 101件,くも膜下出血または他の脳内出血45件,原因不明の出血14件)し,ワルファリン内服中の症例では193件(脳内出血98件,硬膜下出血63件,くも膜下出血または他の脳内出血24件,原因不明の出血8件).
 全体の血栓塞栓症の発症率はワルファリン非投与例で年率2.10%,ワルファリン投与例で1.27%であった.全体の頭蓋内出血の発症率はワルファリン投与例で年率0.58%であり,ワルファリン非投与例で0.32%であった.頭蓋内出血を1.5倍に調整後のワルファリンのnet clinical benefitは0.68/100人年であった.
 85歳以上の例でのワルファリンのnet clinical benefitは2.34/100人年であり,75~84歳においても1.00/100人年の利益が認められたが,74歳以下では0に近い値であった.また塞栓症の既往を有する例でのワルファリンのnet clinical benefitは2.48/100人年であり,塞栓症の既往を有さない例では0.56/100人年であった.また,CHADS2スコアが上昇するとnet clinical benefitは上昇する傾向であった.

記事本文はM-Review会員のみお読みいただけます。

メールアドレス

パスワード

M-Review会員にご登録いただくと、会員限定コンテンツの閲覧やメールマガジンなど様々な情報サービスをご利用いただけます。

新規会員登録

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る