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MEDICAL TOPICS

第72回「ディーゼル排気微粒子による芳香族炭化水素受容体を介した喘息の増悪」

石原康宏山﨑岳

THE LUNG perspectives Vol.27 No.4, 61-65, 2019

ヒトが自然環境下で吸入しうる粒子状物質はPM(particulate matters)と総称され,大きさや構成成分,発生源が異なるさまざまな粒子の混合物を指す.中でも,浮遊粒子状物質(suspended particulate matters)は大気汚染の主たる原因物質であり,その粒径により2.5~10μmの粗大粒子と2.5μm以下の微小粒子(PM2.5)に分類される.粗大粒子は,黄砂に代表される土壌由来の物質が多い一方,主に先進国において,PM2.5の重要な構成成分はディーゼルエンジン由来のディーゼル排気微粒子(Diesel exhaust particles)である.DEPは,一般的に炭素粒子を核とし,硫酸塩や硝酸塩,重金属類,多環芳香族炭化水素など,さまざまな化学物質が炭素核に付着している.
これまでに,DEPが呼吸器系,循環器系,免疫系や内分泌系に悪影響を及ぼすことが明らかにされてきた.粒径の大きい粒子の多くは鼻腔や咽頭,上気道に沈着するが,粒径が小さいほど細気管支,肺胞にまで達する.したがって,PM2.5は粗大粒子と比較して呼吸器系への影響が大きい.加えて,DEPは先進国における主要な大気汚染物質であることからも,DEPの呼吸器系への影響は特に注目されている.動物を用いた研究により,DEPが気道を直接障害して抗原刺激に対する過敏性を高め,抗体産生を促進し,好酸球の炎症部位への遊走,浸潤を増強させることが明らかとなっている1).また,本邦における疫学研究により,PM2.5の濃度の上昇により,喘息児のピークフロー値が有意に低下することが示されており,65歳以上の日別の死亡率について,PM2.5濃度の増加は呼吸器系疾患による死亡率を有意に増加させることも報告されている2)
「KEY WORDS」インターロイキン33,炎症反応,多環芳香族炭化水素,大気汚染微粒子

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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