学会賞 受賞演題・論文解説 第106回日本泌尿器科学会総会
排尿障害:臨床研究 Whole-transcriptome profiling in interstitial cystitis and relative disease by next-generation sequencing:A paradigm shift of the disease concept
排尿障害プラクティス Vol.26 No.2, 83-85, 2018
間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(interstitial cystitis/bladderpain syndrome;IC/BPS)は,膀胱痛,膀胱不快感,尿意亢進,頻尿などの過知覚膀胱症状を有する症状症候群(症状はあるが明確な原因はない状態)の総称です1)2)。BPSという用語は主に欧米のガイドラインで使用されています。
一方,過知覚膀胱(hypersensitive bladder;HSB)は東アジアのガイドラインで提唱されているIC/BPSの類似概念です3)。わが国では,欧米においてIC/BPSが包含する病態を単にICとするか,またはIC/HSBとすることが多いです。欧米におけるIC/BPSとは以下のように対応します。膀胱鏡所見に異常がないものはHSB,膀胱内にハンナ病変があるものはハンナ型IC(hunner type IC;HIC),ハンナ病変はないが水圧拡張後粘膜出血(glomerulations)があるものは非ハンナ型IC(non-hunner type IC;NHIC)となります。
このようにIC関連の病態は用語や定義が世界的にいまだ統一されておりませんが,その主な原因は,病態が未解明であるため疾患概念が確立できない点にあることでしょう。しかしながら近年,病態解明への手掛かりとなりうるような研究結果が次々と明らかになってきており,これらの用語の明確な定義が可能となりつつあります。
まず,詳細な組織学的検討では4),HICは膀胱全体に,尿路上皮の剥離やB細胞優位の炎症細胞浸潤をともなう強度な炎症がみられることがわかっています。これに対して,NHICにはほとんど異常所見がないことが明らかになりました。つまり,HICとNHICの病態は根本的に異なる可能性があります。しかし,現在のICとその関連病態の病型分類は臨床的所見(膀胱鏡所見)に基づいており,その背景となる分子生物学的エビデンスを明らかにすることが急務でありました。そこで,今回われわれは,ICとその関連病態に対する包括的な網羅的遺伝子発現解析を行い,genetic landscapeを観察すると共に,molecular taxonomyの確立につながるエビデンスの創出を試みました。さらに,各病型に特異的な変動遺伝子を同定し,病因に関連するsignaling pathwayや新規治療標的・バイオマーカーの探索も試みました。
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