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学会賞 受賞演題・論文解説 第106回日本泌尿器科学会総会

排尿障害:基礎研究 Classical complement pathway activation mechanism in growth process of benign prostatic hyperplasia. ―autoimmune response by fetal antigen―

秦淳也

排尿障害プラクティス Vol.26 No.2, 80-82, 2018

前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia;BPH)の詳細な発症原因はいまだわかっていません。私たちは以前に,BPH発症原因の解明を目的として,モデルラットを用いて網羅的遺伝子発現解析を行いました1)。その結果,BPH組織では,炎症反応経路や補体の古典的経路が活性化していることがわかりました。補体は従来,感染などの外的刺激に対して反応する自然免疫機構としての働きが知られていました。しかしながら,それに加えて最近では,炎症の増幅機構としての働きも注目されています。一方で,BPHの発症原因の1つとして,炎症が注目されています。つまり,BPHの増殖過程において,補体の活性化を介した炎症の増幅が促進的に働く可能性が示唆されました。
その証明のため,私たちはBPHモデルラットを用いて,補体の発現機能解析を行いました。その結果,BPH組織では正常前立腺組織と比較し,補体系の有意な活性化が確認されました。また,その発現は経時的な増加も示し,特に古典的経路活性化の影響が大きいと考えられました。そこで,補体古典的経路の活性化因子である免疫複合体,つまりIgGの活性化も調べると,BPH組織で有意に亢進していました。そうなると問題となってくるのが,免疫複合体を構成する抗原の存在です。私たちは,その抗原を自己抗原として仮定し,BPH組織を用いた免疫沈降と質量分析を行うことで,α-SMA,β-actin,Annexin,Hsp90の4つの分子を同定しました。しかしながら,それら4分子が補体古典的経路を活性化する詳細な機序についてはわかっていません。そこで私たちは,BPH増殖過程における補体古典的経路の活性化機序を目的として,古典的経路上流分子および原因抗原分子の発現機能解析と局在評価を行いました。

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

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