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前立腺癌

第29回 PSAの変化に関係する諸因子

高山達也大園誠一郎古瀬洋

排尿障害プラクティス Vol.19 No.4, 67-71, 2011

はじめに
 前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)は,種々の腫瘍マーカーの中では最もよく研究され,臨床応用されているものであり,前立腺癌のスクリーニング検査,診断,臨床病期分類,さらには治療後の効果判定においても用いられている.したがって,測定系の標準化やPSA値に影響する諸因子の理解がより正確な評価において重要である.
 そこで本稿では日常臨床においてPSA値を異常値として扱う場合に,知っておくべきPSA変化に影響を及ぼす諸因子について概説する.

PSAの変動

 PSAは,前立腺上皮より産生され,精液中に分泌されるセリンプロテアーゼであり,精嚢タンパク質を溶解し,精子の運動を促進する.通常は前立腺導管内に留まっているが,一部は血管内に逸脱する.正常前立腺であれば,血清中に逸脱するPSAはわずかである.一方,前立腺癌では正常前立腺に比較してPSA産生量は少なく,癌細胞の分化が低いほどPSA産生量は少ないと考えられ,前立腺癌組織のmRNA発現は正常前立腺の1.5倍低いことが示されている1).ただし,癌細胞では細胞構築の破綻により腺管内のPSAが血液中に多く逸脱するため,前立腺癌で血清PSA値が上昇すると考えられている2).
 また,前立腺癌がない場合,人種(黒人>白人),前立腺体積,加齢などによりPSA値は上昇する.特に加齢によるPSA値の上昇については,『前立腺がん検診ガイドライン3)』でも年齢に応じたPSAの基準値を設けるアルゴリズムが推奨されている.さらに,前立腺肥大症がない場合は1年あたり0.04ng/mlのPSAが上昇すること4)や,縦断研究において前立腺体積1mlあたり4%のPSAの上昇が観察されることが報告されている5).わが国においても15年にわたる縦断研究で,前立腺体積の増大は6.6ml(中央値)であった.ただし,前立腺体積が減少する場合があることも留意する必要がある6).

PSAを上昇させる因子

 前立腺上皮細胞の絶対数が多いこと,炎症(前立腺炎)に伴う血管透過性の亢進,さまざまな要因による組織破壊(尿閉・カテーテル操作など)などがPSA上昇を引き起こすと考えられる.
 一方,泌尿器科関連以外のものとして,最近では心疾患でPSAが上昇すること,また,高血圧や動脈硬化の患者とPSAが正相関するとの報告もあり,その機序は不明であるものの,循環障害やアンドロゲン分泌との関連が指摘されている7).
 一般臨床では,手技的な要因と非手技的なものに分類すると理解しやすい.PSAの上昇する手技的な要因については,直腸診,膀胱鏡,経直腸的超音波検査(TRUS),経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT),経尿道的前立腺切除術(TURP),前立腺生検,BCG膀胱内注入,大腸内視鏡検査8)などが挙げられ,正常化するまでの期間が各々異なるため,PSAの検査時期については十分に注意する必要がある(表1)9).

一方,非手技的な要因としては,前立腺癌以外に,肥大(前立腺肥大症)や炎症(前立腺炎)が挙げられ,これらがPSA上昇に最も影響する因子である.

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