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急性冠症候群の最近の動向

治療 急性冠症候群における脂質低下療法

Lipid lowering therapy in acute coronary syndrome

廣高史平山篤志

CARDIAC PRACTICE Vol.22 No.2, 53-57, 2011

はじめに
 日本循環器学会による急性冠症候群(ACS)の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)によれば,ACS発症早期からのHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の投与はクラス1(エビデンスレベルA)に指定されていて1),ACSにおける脂質低下療法の有効性は広く知られた事実である。スタチンが虚血性心疾患に対する一次予防,二次予防ともに有効であることは,全世界で延べ10万人以上の患者を対象とした多くの大規模臨床試験で証明されてきた。日本人を対象とした臨床試験でも,J-LIT試験(Japan Lipid Intervention Trial)やMEGA試験(Management of Elevated Cholesterol in the Primary Prevention Group of Adult Japanese)等,欧米の試験と同様スタチンの有用性が示されてきた。その中で,ACSに対する早期からのスタチン投与の有用性を示唆する成績が報告され注目されている。本稿では,最近のACSに対する脂質低下療法に関する重要なエビデンスを概説した後,特にACS発症早期からのスタチンの有効性についてまとめてみる。

KEY WORDS
急性冠症候群,脂質低下療法,スタチン,LDLコレステロール,プラーク

MIRACL試験

 MIRACL(Myocardial Ischemia Reduction with Aggressive Cholesterol Lowering)試験はACS発症から24~96時間後のアトルバスタチンによる治療が死亡および非致死性虚血イベントを抑制するかを検討したものである。この試験までの二次予防試験は,通常3ヵ月以降の慢性期のスタチン投与による再発予防効果をみたものであるが,本試験は合併症が多発する急性期におけるスタチン投与のイベント抑制効果を初めて報告したものである。
 一次エンドポイントは死亡,非致死性急性心筋梗塞(AMI),心停止からの蘇生,客観的な症状を認め緊急再入院を要する症候性心筋虚血の再発であり,16週間にわたって観察された。対象はアトルバスタチン 80mg/日群1,538例およびプラセボ群1,548例にランダム割り付けされた。試験終了時のLDL-コレステロール(LDL-C)はアトルバスタチン群で平均40%低下して72mg/dL,プラセボ群で12%増加して135mg/dLであった。その結果,一次エンドポイントについてのアトルバスタチン群の相対リスクは0.84[95% CI:0.70~1.00,p=0.048]であった。

PROVEIT-TIMI22試験

 PROVEIT-TIMI22試験(Pravastatin or Atorvastatin Evaluation and Infection Therapy-Thrombolysis in Myocardial Infarction 22)3)はACSにおいて,発症直後(平均7日後)からの アトルバスタチン80mg/日による強力な脂質低下治療の死亡および主要な心血管イベントの抑制効果をプラバスタチン40mg/日による標準的治療と比較したものである。一次エンドポイントは全死亡・心筋梗塞・入院を要する不安定狭心症+血行再建術・脳卒中の複合エンドポイントである。平均24ヵ月(18~36ヵ月)追跡した。ACS治療のためのPCI施行は69%,わが国のリアルワールドよりもやや少ない。治療後のLDL-Cレベルの中央値はアトルバスタチン群62mg/dL,プラバスタチン群95mg/dLであったが,一次エンドポイント発生率はアトルバスタチン群22.4%,プラバスタチン群26.3%でアトルバスタチン群でハザード比(HR)が16%低下した(p=0.005,95%CI:5~26%)。
 なお,アトルバスタチン群の有効性はLDL-C値が125mg/dL以上の例で34%低下と大きかったが,125mg/dL未満例では7%と少なく,このエビデンスを適用できる患者対象についてはさらに精査を要するかもしれない。

A to Z試験

 A to Z試験(Aggrastat-to-Zocor)4)はACS発症から平均3.7日後に早期積極治療群(2,265例)としてシンバスタチン40mg/日を30日投与後80mg/日に増量する群と,非積極治療群(2,232例)としてプラセボを4ヵ月投与後,シンバスタチン20mg/日を投与する群にランダム割り付けした試験で,一次エンドポイントは心血管死+非致死的心筋梗塞(MI)+ACSによる再入院+脳卒中である。ベースラインでの患者背景は平均年齢61歳で,男性(非積極治療群 vs. 積極治療群:75% vs. 76%),PCI施行例(44% vs. 43%),MI(16% vs. 18%,p=0.05)であった。
 LDL-Cは積極群でシンバスタチン40mg/日投与の1ヵ月後に112mg/dLから68mg/dLへ39%低下,80mg/日投与の4ヵ月後に62mg/dLへさらに6%低下し,非積極群は111mg/dLから124mg/dL(プラセボ投与時)へ,さらにシンバスタチン20mg/日投与時には81mg/dLにまで低下した。一次エンドポイントは積極群309例(14.4%),非積極群343例(16.7%),HR 0.89[95% CI:0.76~1.04]で両群間に有意差は認められなかった。しかしながら最初の4ヵ月間の一次エンドポイントのHRは1.01と両群で同様であったものの,4ヵ月以降試験終了まで積極群で有意に低下した(HR 0.75;95% CI:0.60~0.95,p=0.02)。
 このようにACSにおけるシンバスタチンの早期積極治療で一次エンドポイントの有意な低下は実現しなかった。4ヵ月以降においては主要な心血管イベント抑制の傾向が認められているが,一次エンドポイント自体で有意な低下がなかったことは,第1世代スタチンであったためか,患者背景に問題があったかはわからないものの,ACSの早期からのスタチン使用がどんなエビデンスでも文句なしに有効とは言えないことをも留意しておく必要がある。

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