炎症と栄養
炎症性メディエーターと鉄代謝異常
栄養-評価と治療 Vol.28 No.3, 46-49, 2011
SUMMARY
慢性腎臓病(CKD)・慢性心不全・慢性肝疾患などの慢性炎症性疾患においては,炎症性メディエーターが低栄養状態,易感染性,動脈硬化,貧血などの生命予後に影響を与える因子を悪化させている。本稿では,われわれが血液透析患者における検討から導き出した,「炎症性メディエーターが鉄代謝を介してこれらの因子に影響を与えている」との仮説について述べる。最初に,基本的な鉄代謝,体内分布について述べるとともに,慢性炎症に関与する炎症性メディエーターがどのように鉄代謝に関係し栄養状態・易感染性・動脈硬化・貧血などにどう影響するか概説する。
KEY WORDS
■ サイトカイン ■ 鉄代謝 ■ 炎症性メディエーター ■ 慢性腎臓病(CKD) ■ 慢性炎症
Ⅰ はじめに
近年,透析患者をはじめとする慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD) 患者1)・慢性心不全2)・非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver disease;NAFLD)3)などの患者は,サイトカインなどの炎症性メディエーターが高値であり慢性炎症状態にあると考えられており,高サイトカイン血症に伴う低栄養状態,易感染性,動脈硬化,貧血などが生命予後に影響を与えているのではないかと考えられるようになってきた。
特に,本稿で取り上げる維持透析患者では明らかな感染を認めないにもかかわらず血清C反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)の軽度上昇が続き,適切な食事を摂取しても体重が減少する患者が多く認められる。また,合併症として心筋梗塞・狭心症や脳血管障害,さらに末梢血管疾患などの心血管疾患(cardiovascular disease;CVD) の発症が非常に多いことから循環器を専門とする医師からも注目されてきている。CVDと感染症は,透析患者の死因として両者で約60%を占め,年々増加しているが,いずれも鉄代謝異常との関連性が強い。われわれは慢性炎症が引き起こすこのような病態について,体内の鉄代謝異常が原因ではないかと考えており4),本稿では,基本的な鉄代謝,体内分布について述べるとともに,慢性炎症に関与する炎症性メディエーターがどのように鉄代謝,分布に関係し栄養障害などの生命予後にどう影響するかについて概説する。
Ⅱ 鉄代謝・体内分布
1.鉄の分布と貯蔵(図1)
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