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脱脂による高度な全脳透明化と三次元イメージング
The Lipid Vol.29 No.2, 4-10, 2018
生体臓器は単位となる細胞より構成され,三次元的な構造をもつため,臓器全体を三次元的に細胞解像度で観察したいという発想はごく自然である.しかしながら,長い解剖学・組織学の歴史上でもこのようなアイデアは実現が困難であり,2007年のDodtらの論文1)を皮切りにした近年の高度な組織透明化技術と光学顕微鏡による細胞解像度の三次元観察により,ようやく実現の端緒を得た.組織透明化は①組織内の光散乱の減少,②組織内の光吸収の減少の2点を達成することにより実現する2).特に,脳のような脂質が豊富で血色素が比較的少ない臓器では,主に①のメカニズムにより透明化が達成されると考えられる.
脂質は周囲の蛋白質などの生体構成成分に比べその屈折率が高く,また組織中で小胞など光と強く干渉する構造をとるため,組織中の主要な光散乱体となる.このため,全脳観察に必要な高度な組織透明化を達成するプロトコルは,有機溶剤1 ,3 ,4),界面活性剤5 ,6),電気泳動7)などによる脱脂過程を含む.さらに,脱脂後の組織成分(主に蛋白質)と光学特性の近い溶媒(屈折率調整剤)を加えることにより,組織中の光の散乱が最小限に抑えられることで組織透明化が完了する.
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。