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遺伝子操作実験動物-2 プロスタノイド受容体ノックアウトマウス

結城幸一柏木仁小島史章牛首文隆

The Lipid Vol.22 No.2, 4-11, 2011

はじめに
 プロスタノイドとは,プロスタグランジン(PG)とトロンボキサン(TX)の総称である.プロスタノイド生合成は,まずさまざまな刺激に応じて活性化されるホスホリパーゼA2が,膜リン脂質よりアラキドン酸を遊離することに始まる.

はじめに(続き)

次いで,律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)と引き続く各プロスタノイド特異的な合成酵素の作用によって,各プロスタノイドが合成される(図1).

プロスタノイドの化学的半減期はきわめて短いものが多く,また1回の肺循環でほとんどのプロスタノイドが代謝されるため,その生物学的半減期はきわめて短い.したがってプロスタノイドは,主に産生局所で作用し,生体の恒常性維持や疾患の病態形成に働くオータコイドと考えられる.
 プロスタノイドの作用は,標的細胞上に存在する各プロスタノイドに特異的な受容体を介して発揮される.現在,PGD2,PGE2,PGF2α,PGI2,TXA2の受容体としてDP,EP,FP,IP,TPが知られており,さらにEPにはEP1~EP4の4種類のサブタイプが存在する1).プロスタノイド受容体は,共役するシグナル伝達系によって三つのサブファミリーに分類できる.つまり,①Gsに共役してcAMP産生系に働くDP,EP2,EP4,IP,②Gqに共役して細胞内Ca2+動員に働くEP1,FP,TP,③Giに共役してcAMP産生抑制系に働くEP3,である.一方,生体のほとんどの細胞が何種類かのプロスタノイドを産生すること,プロスタノイド受容体の組織発現が多岐にわたること,さらに最近では,各PG受容体は発現する細胞によって共役するG蛋白質の種類が異なる場合やG蛋白質非依存性のシグナル経路が活性化されるケースも報告されていることなどから,プロスタノイドの生体における作用や役割は多種多様な様相を呈している.
 従来,プロスタノイドの作用解析では,プロスタノイド産生の律速酵素であるCOXを阻害する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や,特異性が限定された各受容体アゴニストが用いられてきた.しかし,これらの手段では,特定のプロスタノイドの作用を正確に評価することが困難であった.そこで各受容体を欠損するマウスが作出され,さまざまな疾患の病態形成におけるプロスタノイドの役割が解析されている.本稿では,各受容体欠損マウスを用いた解析から明らかとなってきた,プロスタノイドの心筋梗塞,心肥大,血小板機能調節における役割についてわれわれの知見を中心に紹介したい.

心筋梗塞

 心筋梗塞は,動脈硬化の進行に伴って形成される冠動脈プラークの破綻とそれに続く血栓形成による冠動脈の閉塞に起因する.心筋梗塞の治療では,冠動脈閉塞による心臓への血流遮断(虚血)を解除するため,冠動脈の速やかな再疎通がなされている.しかし,再灌流療法に伴う心筋細胞へのCa2+過負荷や産生されるフリーラジカルによる細胞傷害などによる病態の悪化(再灌流障害)が,問題となっている.心筋梗塞症患者の心臓でプロスタノイドの産生が亢進することから,その心筋梗塞への関与が示唆されていた.以前にわれわれは,内因性PGI2がIPを介して虚血‐再灌流障害から心臓を保護することを明らかにした2).しかし,内因性PGE2の役割については不明であった.そこでEP受容体のなかで,マウス心臓におけるmRNA発現量が最も多いEP4に着目し,PGE2-EP4系の心筋虚血‐再灌流障害における役割の解明を目指した3).
 冠動脈を1時間閉塞した後24時間再灌流を行い,心筋梗塞サイズを解析した.その結果,EP4欠損マウスでは野生型マウスに比し心筋梗塞サイズが有意に増大していた(図2A).

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