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NEXT DOOR 脂質管理の新しい潮流

No.4 本邦の糖尿病合併患者における脂質管理の展望

平野勉

Pharma Medica Vol.32 No.11, 84-86, 2014

糖尿病を合併した脂質異常症患者では,心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の発症リスクが高くなることから,より厳格な脂質管理が必要となる。本邦では近年,PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害薬などの脂質異常症治療薬が開発中であり,新たな治療手段として注目されている。そこで,代謝学の第一人者である平野勉先生に,糖尿病合併患者をはじめとした動脈硬化性疾患高リスク例の話題を中心に,本邦の脂質管理の展望についてお伺いした。

“Treat-to-Target”か? “Fire-and-Forget”か?

◆2013年,米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)ガイドラインが改訂され,脂質管理の方針が大きく変更されました。こちらについてご解説いただけますか。
 脂質異常症に対しては,管理目標値を設定し,その達成を目指して治療する“Treat-to-Target”が一般に採用されていますが,ACC/AHAはこの目標値を廃止し,血清脂質の値にかかわらず治療を継続する“Fire-and- Forget”を取り入れると発表しました1)。糖尿病合併患者を例に挙げると,本邦の動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)が,同患者群を高リスク病態に分類し,LDLコレステロール(LDL-C)管理目標値を120mg/dL未満と設定している(図1)2)のに対し,ACC/AHAは,40~75歳の通常の糖尿病合併例であれば,一律に中強度~高強度のスタチン治療を行うよう推奨しています3)。

年齢制限を設けているのは,スタチン治療による心血管イベント抑制のエビデンスが示されている対象が40~75歳であるためです。
◆米国は今後,“Fire-and-Forget”を推奨していくのでしょうか。
 米国糖尿病学会(ADA)は,この治療方針の変更に対して明確な見解を述べていません。同学会では,ACC/AHAと同様,糖尿病であればLDL-C値にかかわらずスタチンの導入を推奨していますが,現時点での治療方針は従来どおり“Treat-to-Target”です。今後,同学会がACC/AHAを追随して“Fire-and-Forget”を採用するか否かは明らかでなく,今後の議論が待たれます。
◆この影響を受けて,本邦のガイドラインが変更される可能性はありますか。
 日本動脈硬化学会は,現段階では“Treat-to-Target”を継続する姿勢です。本邦と欧米では患者背景が大きく異なるため,本学会は,本邦のガイドライン変更については日本人でのエビデンスを基にして検討すべきだと考えています。ADAが糖尿病合併患者のLDL-C管理目標値を100mg/dL未満と設定しているのに対して,本邦では120mg/dL未満と緩やかな基準になっていますが,これには,本邦における糖尿病患者のメタボリックシンドローム(MetS)合併率がさほど高くないという事情があります。米国では糖尿病患者のほとんどがMetSを合併しており,冠動脈疾患発症率が非常に高率であるため,冠動脈疾患の最も強力なリスク因子であるLDL-Cの低下が重要視されます。なお,日本人の冠動脈疾患発症率は,糖尿病の合併の有無にかかわらず米国人の5分の1程度です。
 しかしながら,ガイドラインは基本的に大規模臨床試験の結果に応じて変更されますので,試験により新たなエビデンスが確立されれば,今後,本邦の治療方針が根本的に変更される可能性も当然あります。また,他のアジアの国々が“Treat-to-Target”を廃止した際は,本邦もそれに倣うべきか否かを十分に検証する必要があるでしょう。

LDL-C値からは把握できないリスクの潜在

◆LDL-Cを低下させても心血管イベントリスクが十分に低減しない患者さんが一部に存在し,脂質治療の課題の1つとなっています。この要因についてはどうお考えですか。
 LDL粒子の動脈硬化惹起性が増強している,つまりLDLの“質”が悪化しているという可能性が要因の1つに考えられます。肥満やMetS,糖尿病合併患者ではトリグリセライド(TG)値が上昇しますが,TGが高値になると小型サイズのLDLであるsmall dense LDLが増加します。このsmall dense LDLは,通常サイズのLDLに比べより一層,動脈硬化惹起性が強いことが明らかになっています。また,LDLがapo(a)と会合して生成するリポ蛋白(a)(Lp(a))は,LDLとは異なり動脈硬化巣には蓄積せず,動脈硬化惹起性については一致した見解が得られていませんが,血栓症との強い関連性が示されており,心血管イベント発症に寄与すると考えられています。
◆LDL-C以外のリスク因子が潜在し,イベントリスクを高めている可能性があるということですね。
 その通りです。また,この“質”の問題とは異なりますが,LDL-Cによる影響は血管に蓄積し残存しますので,高LDL-C血症が長期に放置されていた場合,LDL-C値を正常化した後も,イベントリスクは依然として高い可能性があります。このようなリスクも,現状のLDL-C値を一見しただけでは分かりません。例えば,家族性高コレステロール血症(FH)は先天的に高LDL-C血症を呈し,LDL-C高値が長期に継続される代表的な疾患です。このFHと後天的にLDL-Cが急増したネフローゼ症候群のような病態では,現状のLDL-C値が同程度であっても,イベントリスクは大きく異なるのです。
◆このようなリスクを把握する手段はあるのでしょうか。
 small dense LDL については,LDL粒子数を反映する脂質パラメータであるアポBを測定することで,ある程度予想できます。アポB測定は保険適用されていますが,より簡便にsmall dense LDL量を把握したい場合は,アポBと良好な相関関係が認められているnon HDLコレステロール(non HDL-C)値を算出すると良いでしょう(表1)4)。

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