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NEXT DOOR 脂質管理の新しい潮流

No.3 脂質管理のさらなる改善に向けた課題と展望

山下静也

Pharma Medica Vol.32 No.11, 81-83, 2014

本邦の脂質管理において主な指針とされている「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」は,2012年に最新版へと改訂されたが,現在すでに,次期改訂に向けて新たな協議が重ねられている。他にも,新薬の開発や新たな評価指針の確立等も模索されており,脂質管理のさらなる改善に向け,様々な取り組みが進行中である。そこで今回,本ガイドラインの改訂をはじめ,脂質管理の評価指針の確立に尽力されている山下静也先生に,その取り組みをご紹介いただき,今後の脂質管理の展望についてご意見を伺った。

より適切な評価指標の確立を目指して

◆「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」の次期改訂についてお伺いします。主な改訂点の1つに冠動脈疾患評価チャートの変更が挙げられていますが,この改訂にはどのような背景があるのでしょうか。
 2012年版より,冠動脈疾患リスク評価が相対的評価から絶対的評価に変更され,それに伴い冠動脈疾患絶対リスク評価チャート(一次予防)が取り入れられました。しかし,このチャートが煩雑で少々分かりづらいという声が聞かれます。現状の2012年版でも,この絶対リスクを自動で算出できるソフトを入れたCD-ROMを同梱し,チャートをより簡易化した表等も提示していますが,それでもやはり,多忙な日常臨床の中では,チャートの活用が難しいという意見があります。そこで現在,さらなる簡便化を検討しており,現ソフトの簡便化の他,簡単な電子計算機を取り入れる等,いくつかの案が挙がっています。これらはまだアイディア段階で,今後,十分な検証を重ね具体化していく予定です。
◆2012年版よりnon HDLコレステロール(non HDL-C)の管理目標値が明記されました。これについては今後,変更の予定はありますか。
 現状では,non HDL-C管理目標値をLDLコレステロール(LDL-C)管理目標値+30mg/dL未満と規定しています。これはⅡb型高脂血症の患者さんを対象とした検討から導き出された値です。現在,全国規模の疫学調査を行っており,この調査からは,日本人におけるnon HDL-CとLDL-Cの差はおおむね20mg/dLである可能性が出てきました。この差を海外では30mg/dLと発表しているので,本邦のみが20mg/dLへと変更するには相応の根拠が必要です。この調査で日本人の値を明確に示すことができれば,ガイドラインのnon HDL-C管理目標値も変更される可能性があります。
◆海外では,脂質管理目標値を廃止し,“Fire-and- Forget”を治療指針として取り入れる動きが一部にあります。本邦のガイドラインでもそのような指針を取り入れる可能性があるのでしょうか。
 “Fire-and-Forget”が海外で採用された背景には医療行政上の問題も関係していると思われ,この治療指針では治療継続はされるものの,脂質値やコンプライアンスを把握することはできません。本邦で本指針を採用するか否かは,十分なエビデンスを収集した上で検討していく必要がありますが,おそらくは従来の“Treat-to-Target”が継続される見通しです。
◆日本動脈硬化学会はこのガイドライン改訂の他に,「脳心血管病予防に関するリスク管理チャート」の作成にも取り組まれていますが,こちらについてご紹介いただけますか。
 複数の合併症を有する患者さんの診療では,どの疾患ガイドラインを参照すべきか判断に迷う場合があるかと思います。本チャートはこのようなケースに対して,標準化された簡便な検査および治療指針等を示すことを目的に発案されました。使用対象は,主に一般医家の先生方です。日本内科学会が中心となり,日本動脈硬化学会ほか多数の医学会が参加して,それぞれのガイドラインとの整合性を図りながら内容を吟味しており,来年4月の日本医学会総会でプレスリリースを発表する予定です。

JASコホート研究 脂質異常症治療に関する大規模研究

◆日本動脈硬化学会が主導されているJapan Atherosclerosis Society(JAS)コホート研究について教えていただけますか。
 本研究は,脂質異常症治療薬を投与中の患者1,500~2,000例を対象に,脂質管理状況と脳心血管イベント発症との関連を前向きに調査する目的で,来年の7月から開始する予定です(表1)。

本研究は日本動脈硬化学会が主導していますが,原発性高脂血症調査研究班とも2階建てで調査を行う予定で,家族性高コレステロール血症(FH)をはじめとした原発性高脂血症については,同研究班が別に調査を受け持ちます。
◆通常の脂質異常症と原発性高脂血症を分けて,2階建ての合同研究をされるということですね。
 そうです。ご存じのように,FHは通常の脂質異常症に対してイベントリスクが著しく高いにもかかわらず,現状では,FHに関する十分なデータが集積されていません。本研究には,FHのリスクが他の脂質異常症とは明らかに違うことを明示したいという目的もあり,このような研究デザインとなっています。
◆現在,FH診療はどのような状況にあるのでしょうか。
 一般医家をはじめ医師のFHに対する認識は高いとは言えません。FH患者のうち,FHと診断された上で加療されている割合は非常に低いのが現状です。FHは胎児の時から動脈硬化が始まっている,非常にイベントリスクの高い病態です。FHであることが明らかになれば,当然,治療法も変わってきますので,FHと診断されるか否かで,イベント発症に大きな差が生じます。FHの診断と治療介入の意義を今後,広く啓発していく必要があります。
◆そのような状況から考えると,イベント発症例の中にはFHを合併した患者さんが結構な割合で潜在しているのでしょうか。
 そうですね,急性冠症候群を発症された方の2~3割は,FHを合併していると言われています。

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