<< 一覧に戻る

特集 腎癌診療をめぐる最近の話題

特集にあたって

本間之夫

Pharma Medica Vol.30 No.8, 7-8, 2012

分子生物学的知見の集積, 診断技術の進歩, 手術器具の進歩, 分子標的薬の登場などにより, この数年, 腎癌の診療に大きな変化が起こっている. 本号では腎癌診療の最近の進歩について特集を組み, 各分野のエキスパートに執筆していただいた. 腎癌発生についての最近の話題は, VHL遺伝子, c-MET遺伝子, BHD遺伝子など腎癌発生の遺伝子機構やその後の進展に関する分子メカニズムの解明が進んでいることである. また, 最近の疫学研究により生活習慣上の危険因子が明らかにされつつあることもあげられる. これらの現状について高知大学の執印太郎先生, 東京歯科大学の丸茂健先生にまとめていただいた. 画像診断においては質的診断の進歩があげられる. 最近では術前に組織型予想がある程度できるようになってきている. これは腎良性腫瘍との鑑別の精度向上, ひいては不要な手術や生検の回避に重要な役割を果たしている. この点については慶應義塾大学放射線科の陣崎雅弘先生に解説していただいた. 腎癌の予後因子に関してはこれまでにさまざまなものが報告され, これらに基づいていくつかのリスク分類が提唱されている. 現在, MSKCC(memorial sloan kettering cancer center)リスク分類が最も有名であるが, いくつかの問題点も指摘されている. 徳島大学の金山博臣先生にはリスク分類・予後因子についてレビューしていただいた. 小径腎癌についてはさまざまな方法での腎温存治療が普及してきたことが話題としてあげられる. このことは治療後の慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)の発生防止にも大きく貢献していると考えられている. 小径腎癌の特徴・鑑別診断については東京大学の久米春喜先生, 腎部分切除術の現状と問題点について名古屋第一赤十字病院の服部良平先生, 腹腔鏡下手術について京都府立医科大学の河内明宏先生, ラジオ波焼灼療法, 凍結療法について防衛医科大学の浅野友彦先生, 術後のCKD発生について山口大学の松山豪泰先生にそれぞれ概説していただいた. 一方, 転移性腎癌においては分子標的薬の登場が大きな話題である. 分子標的薬により転移性腎癌の治療が大きく変わり, 何種類もの分子標的薬が市場に出回っている. しかし, このような状況でも免疫療法やワクチン療法が有効である症例は少なからず存在し, 免疫療法・ワクチン療法の意義は決して失われていない. 免疫療法・ワクチン療法の現状について近畿大学の植村天受先生, 分子標的薬の現状について熊本大学の江藤正俊先生に解説していただいた. 最後に, 本特集が近年大きな変化を遂げている腎癌の日常診療を理解するのにお役に立てれば幸いである.

※記事の内容は雑誌掲載時のものです。

一覧に戻る