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肥満をめぐる最近の話題

肥満症の診断基準の設定における論拠と研究の進歩

原一雄門脇孝

Pharma Medica Vol.30 No.1, 13-18, 2012

はじめに
 欧米先進国のみならず経済発展の続くアジア諸国で肥満と肥満に起因する疾患が急増しており,肥満症対策は国際的にも重要な課題となっている1)。日本人は欧米人に比して軽度の肥満であっても,2型糖尿病をはじめとしてさまざまな健康障害を引き起こしていることが明らかになっており,わが国の実態にあった肥満,肥満症の定義が求められている。また疫学的なエビデンスとともに分子生物学から得られた知見が両輪のように働きながら,肥満症に伴う合併症の低減に向けて貢献していくことが求められている。

KEY WORDS
●BMI ●ウエスト周囲長 ●内臓脂肪

Ⅰ.肥満の判定にはBMIを使用する

 脂肪が過剰に蓄積した状態が肥満であり,肥満に起因する健康障害をもっているか将来もつ可能性が高い場合を特に肥満症と定義する2)。
 スクリーニングとしての肥満症診断としては,脂肪蓄積量の評価を非侵襲的かつ簡便に行わなくてはならず,身長と体重測定のみから体重(kg)÷身長(m)²で算出されるBMIが国際的に利用されている。疫学的エビデンスからBMIと心血管疾患リスクとの関連はほぼ確立されているといってもよく,肥満症を診断する意義の観点からBMIを肥満の診断基準に採用することは妥当である。BMIのカットオフとしてWHOはBMI 25kg/㎡以上をoverweight[過体重],BMI 30kg/㎡以上をobese[肥満]に大別し,さらに25kg/㎡≦BMI<30kg/㎡をpreobese, 30kg/㎡≦BMI<35kg/㎡をobese classⅠ,35kg/㎡≦BMI<40kg/㎡をobese classⅡ,BMI≧40kg/㎡をobese classⅢと分類した。ところが,わが国における国民健康・栄養調査ではWHO定義のobese(肥満:BMI 30kg/㎡以上)に該当する者は男性で3.4%,女性で0.2%と低頻度であるにも関わらず3),糖尿病をはじめとした肥満に起因する健康障害が急増しており,欧米人と有病率は同程度になっている。また,日本人ではWHO基準でoverweight(過体重:BMI 25kg/㎡以上)に該当する者の割合が男性では29.7%,女性では21.4%である3)ことから,日本人は欧米人の体格からすると過体重の状態でも肥満に起因した疾患を発症しやすいことが推測される。さらにBMIが25kg/㎡以上の者は血圧,コレステロール,中性脂肪,血糖値が高値であるという疫学的データ4)があることから,国際基準との整合性とわが国固有の状況を鑑みて,日本人における肥満の基準はBMI25kg/㎡以上と設定されたのである。
 身長と体重から算出されるBMIが実際に脂肪蓄積量を反映しているかであるが,BMIは除脂肪量に比べて脂肪量との相関が高く,体脂肪測定法であるDEXA(dual-enegy X-ray absorptiometry)との相関が高い5)ことからも,一定のエビデンスがある。

Ⅱ.肥満症の診断と肥満に起因する健康障害

 脂肪の過剰蓄積に起因した健康障害がすでに表れているか,将来発症のリスクが上昇しており,減量することによって健康障害が緩和する,または将来発症のリスクが低下することが期待できる場合,肥満症と定義される。肥満に起因する健康障害としては,脂肪の重量が増加し機械的な影響に起因する「脂肪細胞の量的異常」と,脂肪細胞から分泌されるアディポカインの異常などによる「脂肪細胞の質的異常」とに大きく分類される。前者には,変形性関節症や腰痛症,睡眠時無呼吸症候群があり,後者は,耐糖能障害,脂質異常症,高血圧など9つの病態であり,後述する内臓脂肪蓄積と特に関連している。
 近年の内外の研究により,同じ脂肪でも皮下に蓄積するのに比べて特に腹腔内に蓄積する脂肪(内臓脂肪)が健康障害を引き起こしやすいことが示されてきたため,現時点で健康障害をもっていなくとも,肥満のなかでも内臓脂肪が蓄積していると思われる場合には肥満症として特に注意することとした(図1)1)2)。

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