肝炎治療;最近の進歩
HCVの増殖機構
Pharma Medica Vol.29 No.10, 9-13, 2011
はじめに
C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;HCV)は1989年に非A非B型肝炎の原因ウイルスとして同定された1)。現在,HCV感染症に対する主要な治療法はインターフェロンとリバビリンによる併用療法である。本年度中には新たにプロテアーゼ阻害薬が臨床導入され,より治癒率の高い治療が可能となると考えられている。HCVは発見されて以来ウイルス培養が困難であったため,その基礎研究は進まなかった。そのため,抗ウイルス薬やワクチンの開発が遅れてきたが,培養細胞で自律複製するサブゲノムレプリコンの開発や,HCVのエンベロープ蛋白をもったシュードタイプウイルスの開発により,HCVの複製増殖や初期感染に関する研究は大きく進歩した2)3)。さらに,劇症肝炎患者から単離されたJFH-1株のゲノムRNAを肝癌細胞由来のHuh-7細胞に導入することにより,感染性ウイルス粒子を培養細胞で作製する技術が2005年に確立された4)-6)。これは,レプリコンシステムやシュードタイプウイルスと異なりHCVの生活環(感染,翻訳,複製,ウイルス粒子形成・放出)をすべて再現可能な実験系であり,HCV研究を急速に加速させた。
KEY WORDS
●HCV ●RNA ●生活環
Ⅰ.HCVゲノムの構造と機能
HCVは約9,600塩基長からなるプラス鎖の一本鎖RNAをゲノムにもつ。このRNAにコードされる約3,000アミノ酸からなる一本の前駆蛋白質は,宿主およびウイルスのプロテアーゼによって切断を受け,ウイルス粒子を形成する構造蛋白質(Core,E1,E2,p7)とウイルス粒子に含まれない非構造(NS)蛋白質( NS2,NS3,NS4A,NS4B,NS5A,NS5B)が産生される(図1)。

HCVゲノムには多様性があり,この多様性はウイルス持続感染に貢献しているものと考えられている7)。興味深いことに慢性肝炎の患者では自然治癒した患者に比べてよりウイルスゲノムの多様性が大きい8)。HCVゲノムRNAの両末端には非翻訳領域(UTR)がある。HCVの5’UTRは多くのステムループ構造をもった4つの主なドメイン(domainI-IV)およびpseudoknotと呼ばれる特徴的な二次構造からなり,5’末端キャップ構造非依存的な翻訳に関わるinternal ribosomal entry site(IRES)を有する9)。また,5’UTRはゲノム複製にも重要である。肝臓特異的マイクロRNA(miR-122)は5’UTRに結合し,HCVのRNA複製を調節する10)。3’UTRは短い可変領域,約80塩基長のpoly(U/UC)stretch,および98塩基長の3’X領域から構成され,ゲノム複製に必須である11)12)。
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