成年後見制度は,判断能力が不十分な者の権利を法的に保護する民法上の制度である。本制度は,社会福祉基礎構造改革の一環として,福祉サービス提供方式が「措置」から「契約」へと転換されたことを契機として1999年の民法改正(平成11年法律第149号)によって創設され,その基本理念には,自己決定の尊重,現有能力の活用,ノーマライゼーションが掲げられている。

しかし,制度施行から20年以上が経過し,社会情勢の変化脚注1を背景に,制度の硬直性や本人の意思尊重との乖離が指摘されるようになってきた。国の成年後見制度利用促進専門家会議においても,本人が必要とする身上保護や意思決定支援の内容,その変化に応じ後見人等を円滑に交代できるようにすべきといった制度改正の方向性に関する指摘等がなされ,第二期成年後見制度利用促進基本計画(2022年3月25日閣議決定)においても,成年後見制度等の見直しに向けた検討と総合的な権利擁護支援策の充実に向けた議論を進めることとされた。さらに,本邦が2017年に批准した国連障害者権利条約(convention on the rights of persons with disabilities:CRPD)第12条では,「すべての障害者が他の者と平等に法的能力を有すること」とされているところ,2022年の本邦に対する国連の総括所見1)では,意思決定を代行する制度(substitute decision-making regimes)を廃止する観点から民法改正等が求められた。それとともに,必要としうる支援の水準や形態にかかわらず,すべての障害者の自律,意思および選好を尊重する支援を受けて意思決定をする仕組み(supported decision-making mechanisms)の設置が求められ,これらの国際的潮流も踏まえた制度改革が喫緊の課題となっている。