令和6(2024)年1月1日に施行された共生社会の実現を推進するための認知症基本法(以下,基本法)1)のなかで,第一章総則第三条(基本理念)第三項に「社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその個性と能力を十分に発揮することができるようにすること」とある。さらには,第三章第十六条(認知症の人の社会参加の機会の確保等)に「国及び地方公共団体は,認知症の人が生きがいや希望を持って暮らすことができるよう,認知症の人が自らの認知症に係る経験等を共有することができる機会の確保,認知症の人の社会参加の機会の確保その他の必要な施策を講ずるものとする」とある。

認知症当事者の社会参加については,長らく議論されてきたが,実際にはこの約10年で加速度的に動いてきた経緯がある。それは「認知症の人が働けるはずがない。働けるのであれば介護保険サービスは必要としない」という誤った認識が知らぬ間に植え付けられていたからだ。つまり,語られてきてはいるが,実際には機会を奪われ,能力を発揮できないまま諦めの境地に至ることがどれほど多かったか。相当前から語られてきたことを示すかのように老人福祉法2)のなかにも記載がある。これは昭和38(1963)年7月11日に施行されたものだが,本文にはこうある。「第一章総則第三条(基本的理念)第一項 老人は,老齢に伴つて生ずる心身の変化を自覚して,常に心身の健康を保持し,又は,その知識と経験を活用して,社会的活動に参加するように努めるものとする。第二項 老人は,その希望と能力とに応じ,適当な仕事に従事する機会その他社会的活動に参加する機会を与えられるものとする」。