社会的孤立(social isolation)とは,他者との交流が限定的であり,自身のもつ社会的ネットワークが縮小している客観的状況を指す1)。社会的孤立は,若年成人期から高齢期までのいずれの年代においても起こりうることであり,特に高齢期では配偶者の死や退職などの生活状況の変化や,加齢・疾患による身体機能の低下を契機とすることが多い2)。高齢期における社会的孤立は,心血管障害,脳血管障害,そして認知症の発症リスクを高めるとされており,健康上の深刻な問題を惹き起こしうる2)。一方,孤独(loneliness)は社会的孤立と同様の状況を表わす語として捉えられることが多いものの,その状況が客観的であるか(社会的孤立),主観的であるか(孤独)という概念によって区別されることが適切である1)

認知症リスク,特に予防を見据えた修正可能な認知症リスクを体系的に検討・報告している論文としては,Gill Livingstonを筆頭としたLancet委員会のレポートが有名である。4年ぶりにアップデートされた2024年の同委員会の報告によると,新たなリスク因子として中年期からのLDLコレステロール高値や高齢期からの未治療視力低下が追加された他,いくつかのリスク因子は高齢期からではなく中年期から解消すべきと見直され,結果,高齢期からのリスク因子[人口寄与割合(population attributable fraction:PAF)]は,社会的孤立(5%),大気汚染(3%),視力低下(2%)の3つとされている3)。社会的孤立のPAFは,中年期の難聴・LDLコレステロール高値(それぞれ7%)に次いで大きな割合を示しており,生涯を通した全体PAF(45%)の1割強を占めるなど,その存在が認知症発症へと多大な影響を及ぼしていることはいうまでもない。

本稿では,社会的孤立・孤独に関する先行研究を概観し,その評価方法や認知機能低下との関連について整理する。また,われわれが兵庫県丹波市において実施した認知症予防介入研究のなかで得られた知見についても紹介する。