本邦において,高齢化の進展に伴い認知症患者数が増加している。2023年9月には,アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)の疾患修飾薬である「レカネマブ」が厚生労働省により承認された。しかし,副作用や高額な薬価などの課題から,臨床での広範な使用にはさらなる検討が必要であり,認知症の発症予防と進行抑制が急務である。
2024年7月にLancet国際委員会は,認知症の改善可能な14のリスク因子を以下のように報告している1);小児期の教育歴,中年期の聴力障害,高LDLコレステロール,うつ,頭部外傷,身体不活動,糖尿病,喫煙,高血圧,肥満,過度なアルコール摂取,高齢期の社会的孤立,大気汚染,視覚障害。これらのリスク因子への介入により,世界の認知症発症のうち約45%を遅延・予防できる可能性が示唆されているが1),現時点ではこれらのリスク因子に対する介入による認知症発症抑制のエビデンスは十分ではない。また,各リスク因子に個別に介入する方法では,認知機能低下や認知症の抑制効果は限られている。近年では,Finnish Geriatric Intervention Study to Prevent Cognitive Impairment and Disability(FINGER)研究2)をはじめとして,複数のリスク因子に同時に介入する多因子介入研究に期待が集まっている。

