認知症の方がその長期的な経過のなかで,認知機能の障害に加え,さまざまな行動変容や精神症状を呈することは,以前より知られていた。例えば有名なAlois Alzheimerによる最初のアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)の症例Auguste Dの発表においても1),記銘力障害や錯語に加え,妄想,幻聴などの症状が記載されている。またArnold Pickによる,後にPick病と名付けられる症例報告においても2),言語症状に加え,無関心や易怒性などの行動上の変化が記載されている。

このように認知症の方に出現する行動変容や精神症状は,常に臨床的に重要な問題であり続けた。一方でその対応についてはこれといった方法がなく,20世紀中盤に至るまで精神科病院への収容が続けられていた。1950年代にハロペリドールやクロールプロマジンなどの抗精神病薬が開発されると,それらが認知症の方の行動変容や精神症状に対しても用いられていくようになる。