最初に,「女性血友病」という術語の認識は必ずしも共有されてはいないので整理しておく必要がある。女性はX染色体を2つもっているので,第VIII,IX因子をうまく作れない遺伝子をもったX染色体を「X'」と表した場合,血友病に関連する女性の性染色体は「X'X'」と「XX'」の2パターン考えられる。まれな例だが,血友病男性と保因者女性によって「X'X'」の性染色体をもって生まれてきた場合は「女性の血友病」になる。また同様にまれだが,X染色体がモノソミーのターナー症候群やいくつかの性染色体異常の女性血友病のパターンがある。一方で「XX'」の性染色体をもって生まれてきた場合は遺伝学的には「保因者」となる。保因者は家族歴によって確定保因者と推定保因者に分類される(表1)。確定保因者は保因者診断を必要としないが,推定保因者は保因者診断によって保因者であるか否かの確度を上げることができる。保因者のVIIIあるいはIX因子活性は50~60%あたりにピークをもつ正規分布を示すとされているが個人差が大きい。軽症血友病の目安である因子活性40%以下の保因者は,保因者全体の20%以上が該当すると世界血友病連盟は警鐘を鳴らす。「女性血友病」の範疇に因子活性が低い保因者も含むべきなのか否かは議論が進んでいない。厚生労働省委託事業の「血液凝固異常症全国調査」令和元年度報告書には女性血友病Aが54人,女性血友病Bが25人と報告されているが,報告に際しての女性血友病の定義はない。
保因者という呼称は遺伝学的であり臨床的呼称ではない。そのために多くの出血傾向を認める症候性保因者が医療につながりにくいという現実を見据えて,症候性保因者を「女性血友病」ととらえていこうという働きかけが欧米では出てきている。保因者数は血友病患者数の数倍に上るとみなされているために,血友病男性に匹敵する数の保因者がなんらかの出血傾向を抱えていると推測される。本稿では希少なホモ接合体である女性血友病に限らず,ヘテロ接合体である保因者も臨床的に女性血友病に該当する例が多いととらえて話を進める。
近年の血友病診療の進歩は著しい。定期補充療法の浸透によって今や年間出血ゼロを成し遂げている患者も多く,平均余命も健常者とほとんど変わらなくなった。とりわけ若年患者はスポーツの制限もなくなりつつあり,QOLの改善は目覚ましい。それに比べて,保因者の状況は身体的にも精神的にも放置されたままであったと反省せざるを得ない。本稿が保因者を含めた女性血友病の認識を高め,血友病包括医療の一環として彼女らを取り込んでいただく一助となれば幸いである。

