血管壁におけるコラーゲンの沈着と分解のバランスの乱れが血管硬化を促進し,肺動脈性肺高血圧症を含む心血管疾患の発症・進展をきたすという考えが注目を浴びている。最近,筆者らは活性化された血管線維芽細胞が心血管疾患においてコラーゲン生合成を促進することを見出した。しかし,活性化された肺動脈外膜線維芽細胞(PAAFs)の代謝機構については不明な点が多い。

外膜線維芽細胞は,血管壁の構造維持に重要な細胞外基質とコラーゲンを制御しており,血管コラーゲン代謝の変化は,血管の緊張と壁構造に影響を与える。コラーゲンのアミノ酸組成はタンパク質としては特異的であり,約33%をグリシン,約20%をプロリンとヒドロキシプロリンが占める。肺高血圧(PH)の進行中に観察されるPAAFsによる大量のコラーゲン分泌は,これらの細胞がエネルギーの必要性に応じて代謝を適応させていることを示唆している。

本研究では,培養細胞,PHの疾患モデルラットおよびPH 患者の肺組織においてメタボロミクス・データ解析を行い,PAAFsの代謝経路について解析した。そして得られた結果に基づき,コラーゲン生成と血管硬化を減少させ,PHのin vivoにおける血管機能を改善することを目的として,これらの代謝経路に対する薬理学的および食事介入を開発した。