肺動脈性肺高血圧症(PAH)は,進行性で予後不良の疾患である。治療法のなかった時代では5年生存率60%未満と報告されていたが1),現在までにPAHに対して標的治療薬が開発され予後が改善した。しかし治癒には至らず現在でもなお新たな治療戦略の確立が求められている。
PAHの原因は多様であるが,PAHの約6~10%に家族歴があり2)遺伝要因も深く関わっており,すでに数十個の疾患関連遺伝子が同定されている[遺伝性PAH(HPAH)]。家族性PAH(FPAH)の約70~87%と特発性PAH(IPAH)の約12~20%では遺伝的素因を特定できる3)-5)。2000年にBMPR2が疾患原因遺伝子として報告され6)7),最も頻度が高い。その後,PAHに関連するいくつかのほかの遺伝子が特定され,2018年第6回世界肺高血圧症シンポジウム(WSPH)では,全17遺伝子が疾患関連遺伝子として明記された8)。その多くはBMP/TGF-β系シグナルに関連している。PAHでは,小肺動脈の血管内皮細胞の障害を引き金に,血管内皮細胞や血管平滑筋細胞の細胞増殖を促進し,アポトーシス抵抗性の亢進が生じる。下流にあるSMAD1/5/8のリン酸化を介するBMP系シグナルの抑制,ならびにSMAD2/3のリン酸化を介するTGF-β系シグナルの促進が引き起こされ,BMP/TGF-β系のアンバランスが生じることがPAHの主要な機序と考えられているが,各PAH関連遺伝子の異常と発症分子機序は十分には結びついていない。

