遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovariancancer:HBOC)は,BRCA1またはBRCA2BRCA1/2)の生殖細胞系列病的バリアントに起因する遺伝性腫瘍で,乳癌,上皮性卵巣癌/卵管癌/腹膜癌(以下卵巣癌),膵癌,前立腺癌などの高い発症リスクが知られている。遺伝形式は常染色体優性遺伝で,第1度近親者(両親・兄弟姉妹・子)がBRCA1/2の同じバリアントを保持する確率は50%である。日本人一般集団におけるBRCA1/2病的バリアント保持者の頻度は不明であるが,欧米のデータでは400~500人に1人と考えられている¹⁾。BRCA1/2病的バリアント保持者では,80歳での乳癌累積発症リスクは72%(BRCA1),69%(BRCA2),80歳までの卵巣癌累積発症リスクは44%(BRCA1),17%(BRCA2)と高い(図1)²⁾。

BRCA1/2病的バリアント保持者の卵巣癌では,診断時すでにⅢ・Ⅳ期の進行癌であることが多い。Ⅲ・Ⅳ期卵巣癌の予後は不良で5年生存率は約40%である。現在,卵巣癌による死亡を減少させる有効な検診方法は確立されておらず,BRCA1/2病的バリアント保持者の卵巣癌予防対策として最も有効な手段はリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)である。これまでの多くの研究でRRSOによって卵巣癌発症リスクおよび全死亡リスクが低減することが報告されている(表1)³⁾ ⁻⁹⁾。