免疫系は自己と非自己を識別し,非自己を排除する機構であり,病原体などの非自己に対する生体の防御機構として生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。がんは細胞の遺伝子変異の蓄積により発生することから,正常細胞が本来有していない非自己物質(=がん抗原)を有していると考えられ,免疫機構ががんに対する防御機構としても機能することが考えられる(がん免疫)。がん免疫の概念は20世紀初頭のP. Ehrichに始まり,途中ヌードマウスの系による否定的結果1)などを経ながらも発展し,ヒトがん抗原の同定2)やノックアウトマウスを用いた免疫関連分子および細胞の欠損による発がん促進の証明3)などにより,その存在が証明されるに至った。現在では,「がん細胞は免疫系により破壊されるが,次第に免疫原性の低いがん細胞の自然選択や免疫抑制機構の獲得により免疫を回避し増殖するようになり,ついには臨床的“がん”が生じる」とする,Schreiberらによる“Cancer Immunoediting”仮説3)が広く受け入れられている。近年,免疫チェックポイント阻害薬をはじめとするがん免疫療法が実臨床に応用されるに至り,がん免疫に対する注目が高まっている。本稿では,がん免疫および免疫逃避機構について甲状腺癌における知見も含めて概説したのち,がん免疫療法の代表例として免疫チェックポイント阻害療法の現況ならびに甲状腺癌に対する開発状況について述べる。
Molecular Biology Lecture
がんと免疫
掲載誌
Thyroid Cancer Explore
Vol.3 No.2 56-67,
2018
著者名
藤澤 孝夫
/
西川 博嘉
記事体裁
抄録
疾患領域
アレルギー・免疫
/
代謝・内分泌
/
甲状腺・副甲状腺
診療科目
糖尿病・代謝・内分泌科
媒体
Thyroid Cancer Explore
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。