1919年,ヘッセが41歳のときに発表した『デミアン』(実吉捷郎訳,岩波書店)1)には,主人公の少年が,近所の悪童に恐喝されていた頃の体験が描かれている。
10歳のジンクレエルが,2人の少年とこれまで体験したいたずらや武勇伝を語りあっていたときのことである。良家の子どもであるジンクレエルは,友だちから仲間はずれにされたくないばかりに,「おおげさな盗賊物語を創作」してしまった。
ところが,その話を聞いた近所の乱暴者として知られている13歳のクロオマアが,ジンクレエルを泥棒として警察に通報する代わりに2マルク払えと要求してきたのである。