古代ギリシアの歴史家トゥキュディデスによって書かれた『戦史』(久保正彰訳,中央公論社)の巻2には,紀元前430年5月から2年に亘ってアテネに猛威をふるった疫病についての記載がある。
ペロポネソス戦争(紀元前431~404年)が始まって2年目の初夏,ペロポネソスをはじめとする同盟諸国は,アテネが支配するアッティカに侵入し,「耕地に破壊行為を加えた」が,この侵入から幾日もたたないうちに,アテネ人の間で疫病発生の兆候が現れた。しかし,「はじめは医師もそれがなんであるか実体をつかむことができなかったために,療治の効をあげることができず,それのみかかれらは患者に接する機会がもっとも多かったので,自分たちがまず犠牲者になる危険にさらされた」のである。