抜歯は,歯科において最も頻度が高い外科的処置と考えられる。抗血栓療法患者における抜歯については古くから多くの議論があったが,2004年に日本循環器学会から『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン』が,そして2010年に日本有病者歯科医療学会などから『科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2010年版』が上梓され,抗血栓療法継続下での抜歯が広く認知されることとなった。その後2015年に,新たなデータの追加や直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の登場に対応するかたちで1回目の改訂が行われた。

そして2020年に2回目となる改訂がなされ,『抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版』が上梓された。今回の改訂では大きな変更はないものの,少ないGRADEアプローチで得られたエビデンスを前提に“ガイドライン統括委員会の見解”というかたちで,臨床に則した指針を示している。本稿では,2020年版の改訂内容と要旨について紹介する。