医療分野における人工知能（AI）の進展は近年著しく，診断精度の向上や治療の個別化が進んでいる．AIは大量のデータを迅速かつ正確に解析する能力をもち，従来の手法では見逃されがちであったパターンや傾向を発見することが可能である．たとえば，AI問診票システムが提示する鑑別候補は網羅的で，見落としを防ぐために役立てることができる．また，AI画像診断においては，高精度な画像解析能力が微細な異常の検出に貢献している．医療現場におけるAIの役割は，ますます重要になっているといえるだろう． しかし，AIの導入には技術的な課題や倫理的・法的な課題が存在する．ほかにも，AIの学習元となるデータの品質や傾き，ブラックボックス問題，プライバシーの保護，誤診のリスクなど，解決すべき課題は多岐にわたる．また，医療従事者が新技術に適応し，効果的に活用するための教育と訓練も必要である． 本稿では，医療分野におけるAI技術の現状を分析し，その課題を明らかにするとともに，将来の展望について考察する．これにより，AI技術の進展が医療にもたらす可能性と，それに伴う社会的な影響について包括的な理解を深めることを目的とする．