「はじめに」耳鳴は聴覚異常感のなかでも著しく生活の質(QOL)を低下させうる疾患であり,医師にとっては診療に難渋することが多い.その理由は,耳鳴消失を切望する患者に馴化という現実的な治療目標を受け入れさせねばならない点,および付随する精神症状への対応である.耳鳴患者は不安障害やうつ病などを併せもつことがあり,耳鳴がそれらの契機になったと思われる例,逆に中途で耳鳴を合併した例などを経験する.耳鳴治療には月単位の日程を要するが,一刻も早い耳鳴消失に固執するあまりドクターショッピングを始める例や自殺に及ぶ例もある.本稿では,耳鳴とうつ病について概説する.
「1 耳鳴の有病率と原因疾患」人口の10~15%が耳鳴を自覚し,このうち1/5(約300万人)が苦痛を伴うと推定される1).年齢別の有病率は,40歳代で約30%,その後は年齢とともに増加し,70歳代では約45%となる.耳鳴は,音源により自覚的耳鳴と他覚的耳鳴に分けられる.他覚的耳鳴は頭頸部の血管や可動部位からの体内雑音で,第三者にも聴取可能である.