薬物依存の性差の背景となる生物学的メカニズムについて報酬系の機能,情動,意思決定の側面から考察した。薬物探索行動に重要な脳内報酬系およびドパミンの機能については,解剖学レベルや神経細胞の応答レベルでは動物でも雌雄差が認められる。しかし,各種依存性薬物によるドパミン遊離増強には雌雄差は認められない。情動については不安の消去やストレスに対する対処行動に雌雄差が認められる。意思決定における衝動傾向は女性のほうが高いとされるが,基礎実験での性差は明確ではない。メカニズムの性差と行動の性差には乖離があり,個別化医療への流れのなかで性差は依存脆弱性の個人差を生む一要因として考慮することができるだろう。