私がアルコール医療に本格的に携わるようになった2000年,国立療養所久里浜病院(現 久里浜医療センター)の入院治療プログラムに認知行動療法が本格的に導入されました。振り返ると従来の直面化スタイルから,欧米でのエビデンスに基づいた動機付け面接や認知行動療法ベースの治療アプローチへと,日本のアルコール医療が大きく変革を遂げていくターニングポイントになるタイミングだったように思います。その当時,特に関西のアルコール医療はまだまだ直面化スタイルが主流で,若かった私は,患者さんによく返り討ちにあったものです。忘れられない患者さんの言葉があります。机をバンと叩いて,「仕事よりも断酒が先だ」と咎めた私に向かって「お前はいつでも否定しかせえへん」,「始める前から転ける,転けるばっかり言いやがって」と激高したのです。私なりに一生懸命のつもりでしたが,患者さんにとっては何の役にも立っていなかったことを知り愕然としました。新米医者の私は失敗ばかりで回り道をしましたが,アルコール医療のスタートを患者さんと断酒会の方々に学ぶことから始められたことは,今となっては大きな財産だと思っています。
「人」
第13回 人材育成について
掲載誌
Frontiers in Alcoholism
Vol.8 No.2 2,
2020
著者名
和気 浩三
記事体裁
抄録
/
連載
疾患領域
精神疾患
診療科目
心療内科
/
精神科
媒体
Frontiers in Alcoholism
※記事の内容は雑誌掲載時のものです。