1980年代の生殖学領域において不育症は,不妊症(infertility)にまでは至らず,妊娠はするが妊娠維持が困難な集団として「subinfertility」という言葉が用いられた.その後,習慣流産(habitual abortion)という用語が使用されていたが,現在では習慣流産(recurrent miscarriage:RM)や不育症(recurrent pregnancy loss:RPL)という表現が一般化されている.
一般的に流産は15%の高頻度で起こるが,妊娠反応(hCGの検出)のみによって妊娠反応が確認され,胎囊が確認される以前に妊娠が終了するものを生化学的妊娠(bio-chemical pregnancy)と呼び,流産に含めるかはコンセンサスに差がある.一方で,妊娠反応の精度上昇に伴って従来は認識されなかった生化学的妊娠の頻度は22%であり,その後,同集団は95%が出産に至った背景があるため1),生化学的妊娠は高頻度であり,予後も良好だったため流産に含めないというのがわが国のコンセンサスとなっている.
実際にわが国では厚生労働研究報告書より不育症の定義を2回既往の流・死産と規定した2).一方で,2013年の米国生殖医学会(american society of reproductive medicine:ASRM)でも2回以上の妊娠の不成功があった場合と規定している3).そして,前述したようにいずれも生化学的妊娠を流産回数に含めておらず,子宮内に胎囊が認められた時点で臨床的妊娠としてカウントしている.ところが,2015年の欧州生殖医学会(european society of human reproduction and embryology:ESHRE)では,生化学的流産も含めた妊娠を“生殖ロス(pregnancy loss)”として定義して,今後の国際基準表記を提案している.ASRMとESHREでの決定的な違いは,前者では生化学的妊娠を含めない反復流産を不育症として定義しており,後者では生化学的妊娠を含める反復生殖ロスを不育症と定義している.わが国ではASRMに近似した定義になっているが,生殖ロス自体の生殖生理学的意味が曖昧であるため,現在は定義には含めていないが,生殖ロスの意義が明確になることがあればわが国でも生殖ロスを含めた不育症の新しい定義が議論されることが今後期待される.