「はじめに」インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は,主に呼吸器や耳鼻科領域および中枢神経系の感染症の原因となる細菌である。これらの感染症においては,大まかにいって肺炎球菌に次いで多く分離されており,重要な病原体である。本菌による感染症は小児に多くみられるが,成人でも少なからず本菌による感染症が認められるため,本菌の特徴をよく理解して感染症診療を行う必要がある。

「細菌学的特徴」インフルエンザ菌は,Haemophilus属のグラム陰性桿菌である。形態的には短い桿菌として観察され,小桿菌と表現される(図1)。グラム染色では桿菌から球菌に近い形状のものまで各形態の菌が混在して観察される,いわゆる多形性が特徴的である。本菌の発育には血球成分にも含まれるX因子(ヘミン)とV因子(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)の両方が必要である。そのため,これらの成分をうまく活用できるチョコレート寒天培地では本菌は良好な発育を示すが,血球が壊れていない血液寒天培地には発育を認めない(図2)。なお,血を好むという性質が属名のHaemophilusの由来となっている。