「はじめに」『Practice of Pain Management』創刊号の“Trend & Topics”では「痛みからの解放の歴史―戦争がもたらした痛みを巡って―」という題で書かせていただきました.太古の昔から人は痛みに苦しめられてきたので,星の数ほどの痛みの物語があるに違いありません.そのなかには科学や医学の発展に結びつくものもありますが,現在は学ばねばならない新しい情報が多すぎて,物語は歴史のなかに埋もれてしまっています.連載企画のご依頼をいただきましたので,「痛みと鎮痛の歴史閑話」として語ってみたいと思いました.

「1 中世ヨーロッパで流行した灼けつく痛み」京都の祇園祭は疫病退散を祈願した祭りです.平安京ではたびたび疫病の流行が続き,その原因は怨霊の祟りであると考え,神仏に祈りを捧げて祟りを鎮めるために869年(平安時代貞観11年)に始められたそうです.「聖アントニウスの火」はその12年前の857年最初の記載があり,患者たちは手足が焦がされるような痛みを治すために,巡礼の旅に出ていました.アダムとイヴから受け継がれた原罪を一身に背負って受難したキリストの磔刑に象徴されているように,西洋では身体の痛みは罪に対する神の罰であると考えられていたのです.