片頭痛治療薬のトリプタンが本邦で使用開始され10年が経過し,現在スマトリプタン(錠剤,注射薬,点鼻薬),エレトリプタン(錠剤),ゾルミトリプタン(錠剤,口腔内速溶錠),リザトリプタン(錠剤,口腔内崩壊錠),ナラトリプタン(錠剤)が使用可能である.いずれも適応と使用上の注意点を守れば安全性はきわめて高い.  トリプタンはセロトニン5-HT1B/1D受容体の選択的作動薬である.そのためSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬),SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などほかのセロトニン作動薬との併用により,セロトニン症候群を惹起する可能性が危惧される.このような見地から2006年,米国食品医薬品局(FDA)は,トリプタンとSSRI/SNRIとの併用により,セロトニン症候群発症リスクが高まる可能性があると勧告している.  米国頭痛学会は,このFDA勧告の根拠となった症例報告と,その後に蓄積された報告を合わせて再評価し,学会誌(Headache 2010年6月号)に見解を発表している.すなわち,現在のところトリプタンとSSRI/SNRIとの併用がセロトニン症候群発症リスクを増加させるとする十分なエビデンスはない.ただし,疾患の重篤性を考慮すると,併用には十分な注意が必要であるというものである.  片頭痛患者には,うつや不安障害が共存していることがまれでない.加えてSSRI/SNRIには予防薬として有効であるとのエビデンスがあるため,安全性が担保されればトリプタンと併用したいと思うことは自然である.  今回はトリプタンとSSRI/SNRIの併用について,お2人のエキスパートに是か非かの立場で論じていただきたい. (立岡神経内科 院長 立岡良久 Yoshihisa Tatsuoka) ※本企画はテーマに対して,あえて一方の見地に立った場合の議論であり,必ずしも論者自身の確定した意見ではありません.