外界からの知覚入力なしに人や動物などの有意味な対象が見える現象を,複雑幻視という。網膜から視覚皮質に至る視覚経路の異常と,上部脳幹,前脳基底部の上行性神経調節因子(アセチルコリン,ドパミンなど)の異常が,複雑幻視の発生にかかわっていると考えられている。

「はじめに」幻聴が統合失調症をはじめとする内因性精神病の特徴的症候であるのに対して,幻視は主として器質性脳疾患において認められる症候である1)。なかでも,人や動物などの有意味な視覚像にかかわる幻視は複雑幻視と呼ばれ,パーキンソン病(PD)やレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)において高頻度に観察される2)。本稿では,さまざまな神経疾患で認められる複雑幻視とその病態仮説について紹介する。
「複雑幻視の3つの機序」複雑幻視の発生機序は3つに分けられる3)。1つ目が高次視覚皮質に対する刺激性(てんかん性)機序,2つ目が視覚経路損傷による視覚入力遮断による開放性機序(deafferentationもしくはrelease phenomenon),3つ目がアセチルコリンやドパミンなどの上行性神経調節因子の障害,である。