―髙崎先生が膠原病内科に入局されたきっかけについてお聞かせください.

 膠原病は特定の臓器障害ではなく全身性疾患であり,内科として最も興味深い疾患であること,またその病態の進展には当時目覚ましい発展を遂げつつあった免疫学が深く関与していることから,この領域で勉強しようと思いました.加えて,当時,膠原病内科を主宰されていた塩川優一先生は大変素晴らしい先生で,塩川先生のお人柄に惹かれ入局しました.


―教室の歴史・沿革についてお聞かせください.

 順天堂大学は全国の大学病院に先駆け,1968年に専門診療科を確立しました.そのなかで膠原病内科は1969年に日本で初めて設立され,初代教授に塩川優一先生が就任されました.第1内科,第2内科といった講座の分け方の場合,教授の専門が,ある時は消化器,ある時は呼吸器というように変わることがありますが,専門別ではメインのテーマは変わったとしても,膠原病学を目指すという点では延々と続いていくわけです.そのような連続性が今日の順天堂大学膠原病内科の発展をもたらしていると思います.



 私が入局した当時は膠原病は未知の学問であり,当教室では海外に留学生を積極的に送り出し,海外の最新の研究を取り入れながら,基礎的な研究を展開するとともに,臨床にも力を入れていました.たとえば血漿交換療法は,UCLAに留学したグループが当教室に持ち帰り,塩川先生が発展させました.

 そして豊富な症例と詳細な解析によって,日本の膠原病内科のパイオニアとして,この領域を常にリードしてきたといっても過言ではないと思います.



―現在,教室で取り組まれている基礎研究,臨床研究についてお聞かせください.

 多臓器障害である膠原病は,各臓器の専門家が力を合わせて診療する必要があります.順天堂医院は診療科別に細分化されていますが,各診療科の連携が非常に良好で,1人の患者さんに対していろいろな診療科の担当医が共同で診ていく兼科制度があり,そのシステムを活用して膠原病の患者さんに質の高い医療を提供しています.

 研究面では,代々数多くの留学生を海外に派遣し,そこで研究を終えて得たものを教室に還元して,それをさらに発展させています.私自身は膠原病の患者さんから検出される自己抗体の産生メカニズムと,その抗体がもたらす病態に関する研究を一貫して続けています.当教室には5つの研究グループがあります.田村直人先任准教授をリーダーとするグループは,主として関節リウマチ(RA)の病因・病態,ならびに新規治療の研究に取り組んでいます.山路 健先任准教授のグループは,血漿交換療法の臨床的な意義や,病態への作用など,血漿交換療法をテーマの中心としています.天野浩文准教授のグループは,モデルマウスを用いて,主として全身性エリスマトーデス(SLE)の病因,病態の解明を行っています.森本真司先任准教授のグループは,SLEのループス腎炎を中心とする免疫抑制療法の意義,およびヒトを対象としたSLEの病態の解明をしています.さらに私も参加している,野澤和久准教授をリーダーとした自己抗体の研究グループがあります.

 また順天堂大学には優れた免疫学や病理学の基礎の教室があり,当科の大学院生が共同研究を積極的に行っています.さらに国内外の免疫学関連の研究施設と基礎医学の共同研究も展開しています.逆に,症例が豊富な当科での臨床研究を希望する研究生も多く,膠原病内科のパイオニアとしていろいろな人を教育していくことはわれわれの使命と考え,広く受け入れています.




―生物学的製剤の導入によってRA治療に起こった変化についてお聞かせください.

 私がRAの診療に携わるようになった34年ほど前は,多くの患者さんが車椅子が必要であったり,寝たきりでしたが,メトトレキサート(MTX)が出現し,さらに生物学的製剤が加わり,RAの治療はパラダイムシフトと言えるほどの変化がありました.今では生物学的製剤も6製剤となり,RAの患者さんは早期に適切な治療をすれば,少なくとも病気の進展は効果的に抑制できるようになりました.

 現在,日本で使用可能な6種の生物学的製剤は標的が異なるものもありますが,MTXを併用する限り,ほとんど臨床的には効果は同等で,副作用も大差がないという印象があります.そのため,自己注射が可能か,通院が可能かなど,患者さんの利便性を考えて使い分けています.使い分けができるような指標の確立など,個々の患者さんに合った使い分けを明確にすることが今後の課題だと思います.

―RA診療における関節エコーの役割についてお聞かせください.


 RAの診断には画像は非常に重要です.2006年には厚生労働省研究班のMRIを取り入れたRA早期診断予測基準が示されました.しかし,MRIはどこの施設にでもある装置ではありません.そのためMRIに匹敵するような画像診断の技術が求められています.そういう状況のなかで関節エコーは診断に非常に有用であり,当教室でもかなり早くから導入し,現在では外来でもルーチンにできるようになっています.

 また,これまで膠原病内科では,循環器内科の心臓カテーテルや心エコー,消化器内科の内視鏡検査というような特徴的なテクニックはなく,いわゆる内科的な内科でした.RA診断に有用な技術として関節エコーがあるということは,若手医師へのアピールにもなると考えています.

―順天堂リウマチ膠原病研究会・公開講座についてお聞かせください.

 外来は非常に多忙で,1人の患者さんに多くの時間を費やして説明や教育をすることはなかなかできません.それを補うために当院に通院する患者さんを対象に,有料で膠原病学級を1ヵ月おきに月2回開催しています.

 また,広く一般市民を対象とした「順天堂リウマチ膠原病研究会・公開講座」を年に1回開催しています.RAの治療にはパラダイムシフトが起こりましたが,膠原病は不治の病であり,治らないと思い続けている患者さんはまだまだ多いという現実があります.われわれは膠原病治療に長く携わっている施設のひとつとして,変わりつつある膠原病の治療を広く一般の方にアピールし,それを理解していただいて,積極的に取り入れていただくようにすることは社会的責任のひとつであると考えています.加えて生物学的製剤は高コストという問題がありますが,RAの場合には公費負担がありません.そういう実態を多くの方々に理解していただき,国に求めていくことも必要だと思います.そのためには,患者さんと医師,および取り巻く人々が共同で努力をしていかなければならないと考えています.





―関連病院との連携や地域医療連携についてお聞かせください.

 順天堂大学には,お茶の水にある順天堂医院のほか,静岡病院,練馬病院,越谷病院,江東高齢者医療センター,浦安病院という6つの附属病院があり,すべて合わせると3,000床を超えます.膠原病内科は6病院すべてにあり,医師を派遣していますから,1つのグループとして数多くの患者さんを診ていることになります.また財団法人佐々木研究所附属杏雲堂病院の内科・リウマチ科も関連施設の1つであり,それらを統合したデータのなかで,生物学的製剤6製剤の治療上の特徴や副作用などについて解析しています.

 当科はこれまでに非常に数多くの膠原病専門医を輩出しています.そういった先生方と連携を図る会を年に2回ほど開催し,病病連携,病診連携を行い,生物学的製剤の導入や,治療継続などを効率よく行うように協力して取り組んでおり,研究や診療に生かしています.




―後期研修プログラムの特徴についてお聞かせください.

 後期研修では,知識や技術はもとより患者さんを全人的にサポートできる医師を育成していくことを目標としています.平均入局者数は4~4.5人で,順天堂大学卒業生はほぼ半数です.基本的には本人の希望に応じた研修コースが選択できますが,教室としては積極的に大学院への進学を勧めています.やはり大学院で研究に専念する期間を設定したほうが,集中して良い仕事ができると思います.

 研究は,その後臨床医として働いていくうえでも非常に大事です.ひとつのテーマを持って仕事をし,関連する文献を読み,最後に論文を書くというプロセスを踏んで,系統的に考えてまとめる力をつけることは,研究をするなかで最も効果的に養えます.また何が明らかになっていて,何が明らかになっていないのかを調べるプロセスを学ぶことも重要で,的確に情報を収集できるようにすることは臨床でも大切なのです.




―教室の若手の研究者・臨床医へのアドバイスをお願いいたします.

 最近の若者は安定志向が強く,積極的に留学をしたがらない傾向があるように思います.言葉の壁もありますし,日本の慣れた環境にいるほうが楽かもしれませんが,教室をさらに発展させていくためには,積極的に海外に出て,より新しい知識やテクニックを導入していく必要があります.また厳しい環境のなかでトレーニングを積まなければ,学問に対する真摯な姿勢はなかなか生まれてきません.ですから,私は若い方には積極的に留学してもらいたいと思っています.

 事情があって留学しない場合も,大学はアカデミックな場ですから,大学にいる以上は臨床だけ行うのではなく,積極的に研究に取り組んでもらいたいと思います.最近は情報が豊富で,ネットで調べれば最新のデータを入手することができます.しかし,その裏には情報を出している人がいるという事実があります.情報を享受する側ではなく,情報を発信する側になって,医学の発展に役立つようなことをしていただきたいと思います.




―将来展望や課題についてお聞かせください.

 生物学的製剤により,RAは寛解も導入できるようになりました.しかし,すべての患者さんが治癒するわけではなく,RAを克服したとは言えません.現状に満足することなく,原因の解明と,その原因に則した治療を開発する努力を行って,よりQOLの向上をもたらすようにしていかなければいけないと考えています.



髙崎芳成(たかさき・よしなり)

昭和25年8月20日生

昭和50年3月順天堂大学医学部卒業

昭和50年6月順天堂大学医学部内科研修医

昭和52年6月順天堂大学医学部膠原病内科入局,専攻生

昭和53年4月順天堂大学医学部大学院

博士課程(内科)入学

昭和53年4月伊東国立温泉病院リウマチ科医員

昭和54年3月帰局

昭和54年6月米国コロラド州立大学Health Science Center

リウマチ科(E.M. Tan教授)研究員

昭和56年9月帰局

昭和57年3月順天堂大学医学部大学院

博士課程(内科)卒業,医学博士

(卒業論文「Characterization of proliferating cell nuclear antigen recognized by autoantibodies in lupus sera(Takasaki Y, Fishwild D, Tan EM:J Exp Med 159:981-992, 1984)」)

昭和57年4月順天堂大学医学部膠原病内科助手

昭和61年4月順天堂大学医学部膠原病内科講師

平成6年8月順天堂大学医学部膠原病内科助教授

平成17年12月順天堂大学医学部膠原病内科教授就任

平成23年4月順天堂大学医学部附属順天堂医院院長就任