角膜内皮細胞は多角形細胞からなる単層の細胞層であり,角膜の含水率を一定に保つことにより角膜の透明性を維持する重要な役割をもつ。ヒトの角膜内皮細胞は再生能力が乏しいため,白内障や緑内障などに対する内眼手術やフックス角膜内皮ジストロフィ等の疾患によって広範囲に障害されると,角膜内皮機能不全による水疱性角膜症を生じ,重症の視力障害をきたす。水疱性角膜症に対する唯一の治療法はドナー角膜組織を用いた角膜移植であるが,ドナー不足や移植片機能不全などの問題があり,新しい治療法の開発が望まれている。我々は水疱性角膜症に対する再生医療の開発に取り組み,2013年に他家培養角膜内皮細胞注入治療のFirst-in-Man臨床研究を開始した。臨床研究では,本治療法が低侵襲で患者の負担が少ない手術であり,高齢者や角膜移植のハイリスク眼にも適応でき,角膜内皮機能の回復と視力改善が得られるなど,高い治療効果が得られることを確認した。一方で,細胞培養法のさらなる効率化や薬事対応,保存と輸送などの観点から,本治療法をユニバーサルな治療として確立する上での課題も明らかになりつつある。本稿では,近い将来,実用化が期待される培養角膜内皮細胞注入治療について,着想から臨床研究までの道のり,そして再生医療等製品としての承認取得による製品開発を目指した我々の取り組みを紹介する。
「KEY WORDS」水疱性角膜症,角膜内皮細胞,細胞移植,Rhoキナーゼ阻害剤,再生医療等製品