臓器別の専門医育成が主流となってから,「心筋梗塞」と「脳梗塞」は別の病気と捉えられた。製薬企業も,循環器医,神経内科医など臓器別専門医を疾患啓発の対象とした。「心筋梗塞」と「脳梗塞」では,「臓器灌流血管の動脈硬化を基盤とする血栓症」の病態に共通性がある。しかし,新薬開発は臓器別専門医集団を対象としており,「臓器灌流血管の動脈硬化を基盤とする血栓症」を標的とした抗血栓薬の開発は過去のクロピドグレルの臨床開発などに限局されていた1)2)
国内のみで罹患者が100万人いるかもしれないとされる心房細動は不整脈として循環器医が診療にあたる。Framinghamの観察研究は心房細動症例では長期間の観察期間内の脳卒中の発症リスクが高いことを示した3)。COMPASS試験にて使用された第Ⅹa因子阻害薬リバーロキサバンは,他の第Xa因子阻害薬アピキサバン,エドキサバンとともに非弁膜症性心房細動を対象とした「脳卒中」予防試験が施行された。しかし,1991年Framingham研究の時代と異なり,現在,「脳卒中」は脳の専門家からみれば死語である。CT,MRIなどの画像診断により,神経学的巣症状の原因を梗塞と出血に分けないことはない。それでも,脳のことを十分に知らない循環器医を対象としたので,非弁膜症性心房細動における「脳卒中」予防試験は第Xa因子阻害薬,トロンビン阻害薬において当局の認可承認を得るとの意味では成功した4)-8)。血栓止血の専門家からみればトロンビン阻害薬と第Xa因子阻害薬を非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(non-vitamin K antagonist oral anticoagulant:NOAC),直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)とする表現は非科学的といえる9)。「心房細動=脳卒中の原因」と単純化し,その予防が抗凝固薬により可能と単純化したことは疾病と治療の専門家として過去に尊敬された医師の科学性には反するアプローチだが,循環器医を対象としたNOAC(DOAC)のマーケティングとしては現時点では成功といえる。