骨代謝マーカーは,骨粗鬆症診療には不可欠な診療ツールであり,優れた動的指標が得られる臨床検査項目となった。本委員会は,2001 年よりこれまで骨粗鬆症診療を中心にガイドライン(またはガイド)を作成してきた。しかし,本委員会が策定・公表した『骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーの適正使用ガイド2018 年版』は広く骨粗鬆症診療に携わる医療関係諸氏には知られてはいるが,実臨床での骨代謝マーカー使用の普及率は45%程度に留まっている。 骨粗鬆症治療の開始率や継続率を向上させ治療ギャップを解消するためには,日本骨粗鬆症学会認定医と骨粗鬆症マネージャーを中心とした骨粗鬆症リエゾンサービスの活動も期待されている。骨粗鬆症治療薬の継続とアドヒアランスは,骨代謝マーカーを測定することで向上することは,既に国際臨床化学連合・国際骨粗鬆症財団の合同専門委員会や英国の国民保健サービス(National Health Service:NHS)でも検討され,その意義が確立されつつある。 骨粗鬆症診療の中で多職種連携のチーム医療を推進するためには,医師,メディカルスタッフの育成が必要であり,誰でも骨代謝マーカーの実践的活用を簡単に理解するための参考となる知識をわかりやすく提供することは臨床に携わる医療関係者のみならず,骨代謝を専門分野とする研究者や学生諸氏にも必要である。 本書の作成には,本委員会委員以外にも各分野の専門家に執筆を依頼した。本書の特徴として,各ChapterにQ(Question)を設け,そのA(Answer)を詳しく解説していただいた。本書を実践で活用していただくことで,骨代謝マーカーや骨代謝検査項目の知識を包括的に確認したい医師・メディカルスタッフ,および基礎研究者,これから骨粗鬆症診療を始めようとする医師,骨粗鬆症専門医または骨粗鬆症マネージャー認定試験を受験したいと思っている医師・メディカルスタッフ,骨粗鬆症に興味をもつ学生にもわかりやすく理解しやすいように企画した。また,各Chapter には,コラムも設けて骨代謝マーカーあるいは代謝性骨疾患に関する話題や課題などについて自由に執筆していただき,書籍として面白さを引き出すように心掛けた。
是非,骨粗鬆症診療のみならず代謝性骨疾患,悪性腫瘍による骨転移などの日常診療や研究等の補助として本書を使用して頂き,何時でも骨代謝マーカーや骨代謝関連項目を活用できる実践書の1 冊となることを期待したい。
(三浦 雅一「巻頭言」より)
Chapter 1 各種骨代謝マーカーとその特徴
Q1 骨代謝マーカーにはどのような種類がありますか?
column 骨代謝マーカーおよび骨代謝関連項目のハーモナイゼーションとは何か
Q2 骨形成マーカーの種類と特徴について教えてください
①オステオカルシン(OC)
②骨型アルカリホスファターゼ(BAP)
③Ⅰ型プロコラーゲン-N-プロペプチド(P1NP)
Q3 骨吸収マーカーの種類と特徴について教えてください
①デオキシピリジノリン(含むピリジノリン)(DPD/PYD)
②Ⅰ型コラーゲン架橋 N-テロペプチド(NTX)
③Ⅰ型コラーゲン架橋 C-テロペプチド(CTX)または
Ⅰ型コラーゲン架橋 C-テロペプチドβ異性体(β-CTX)
④Ⅰ型コラーゲン-C-テロペプチド(1CTP)
⑤酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ-5b(TRACP-5bまたはTRAP5b)
Q4 骨マトリックス関連マーカーの種類と特徴について教えてください
①低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)
②ペントシジン
Chapter 2 骨代謝マーカー以外の骨代謝関連検査
Q5 骨代謝マーカー以外に,骨代謝の状態を調べる検査はありますか?
①ビタミンD代謝物
②副甲状腺ホルモン(PTH)
③カルシトニン
④線維芽細胞増殖因子23 (FGF23)
⑤スクレロスチン
Q6 miRNAを含む遺伝子関連検査はどのような検査ですか?
column 骨代謝マーカー論文の思い出
Chapter 3 骨代謝マーカーの測定方法と測定時の注意点
Q7 骨代謝マーカーはどのように測定するのですか?
Q8 骨代謝マーカーのピットフォールはありますか?
Q9 骨代謝マーカーはどのように使い分けて測定したらよいですか?
Q10 骨折後あるいは整形外科手術(脊椎・関節など)に際し, どのように骨代謝マーカーを測定すればよいですか?
column 骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーの保険診療(医科診療報酬点数)での課題~測定頻度と測定タイミング~
Q11 骨代謝マーカーの新たな測定技術はありますか?
Chapter 4 骨粗鬆症における骨代謝マーカーと薬物治療効果判定
Q12 骨粗鬆症の日常検査における骨代謝マーカー測定の意義を教えてください
Q13 骨吸収抑制薬を使った場合,骨代謝マーカーはどのように変化しますか?
①ビスホスホネート薬
②選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)/ホルモン補充療法(HRT)
③抗RANKL抗体薬
Q14 骨形成促進薬を使った場合,骨代謝マーカーはどのように変化しますか?
①副甲状腺ホルモン (PTH) 薬
②副甲状腺ホルモン関連蛋白 (PTHrP) 薬
③抗スクレロスチン抗体薬
Q15 その他の治療薬を使った場合,骨代謝マーカーはどのように変化しますか?
①活性型ビタミンD3薬(誘導体含む)
②ビタミンK2薬
column 骨代謝マーカーへの雑感
Chapter 5 併用療法と逐次療法における骨代謝マーカー
Q16 併用療法を行った場合,骨代謝マーカーはどのように変化しますか?
Q17 逐次療法を行った場合,骨代謝マーカーはどのように変化しますか?
column 骨代謝マーカーの推移と骨密度増加
Chapter 6 続発性骨粗鬆症と各代謝性骨疾患での骨代謝マーカー
Q18 ステロイド性骨粗鬆症では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q19 関節リウマチでは,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q20 生活習慣病では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q21 甲状線機能亢進症と原発性副甲状腺機能亢進症では, どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q22 性腺機能低下症では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか? アロマターゼ阻害薬の使用時も含めて,教えてください
Q23 くる病と骨軟化症では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q24 慢性腎臓病に伴うミネラル骨代謝異常(CKD-MBD)では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q25 不動と骨萎縮では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q26 骨パジェット病では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q27 低ホスファターゼ症では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
Q28 悪性腫瘍の骨転移では,どのように骨代謝マーカーを使えばよいですか?
column 続発性骨粗鬆症と各代謝性骨疾患での骨代謝マーカー
Chapter 7 栄養およびスポーツと骨代謝マーカー
Q29栄養と骨代謝マーカーの関連について教えてください
Q30スポーツなどで身体を動かすと,骨代謝マーカーはどのように変化しますか?
column 栄養およびスポーツと骨代謝マーカー
Chapter 8 骨代謝マーカーを実践活用したこれからの骨粗鬆症診療
Q31骨代謝マーカーの将来展望について, 具体的な事例を用いて教えてください
column モノ申す “骨代謝学”
column 二次性骨折予防継続管理料とは
巻頭言
推薦の辞
委員会・執筆者一覧
索引